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生命の木〜少女愛者の苦悩
生命の木
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れた本一冊とともに、レナータは帰っていった。
 緑川はそのまま電車で街まで行き、賑やかな土曜の夜を心ゆくまで楽しんだ。冷え切った自由な心は、街の彩りをあざやかに見せ、風俗の娘たちとも軽やかに話して飽きさせなかった。
 この夜、緑川はいくら飲んでも泥酔することなく、むしろ冴えた頭で終電に乗り、絶望とは清々しいものだと思いながら家に帰った。

 宿酔は宿酔であった。翌朝、緑川はいつもの気分悪さで朝を迎えた。そしてきのうのこともきのうのことであった。思い出となったきのうは今日の緑川にとっては単なる悪夢だった。「犯罪」の現場をズザンナに見られたのだ。それとも、この心変わりは、諦めたはずの期待や欲が戻っただけなのだろうか。自由などもうまるで感じなかった。このまま落ちていくほかないと緑川は思った。きのうはレナータを「救う」手立てすら考えた。それが今はレナータに救いを求めている。しかもその救いは、レナータを思いのままにしたい、レナータについてきてもらいたいという自己閉鎖的な欲望らしかった。緑川は自殺のことを考えた。それは退職と同じくらいの重さだと思われた。するかしないかだけの話であった。
 呼び鈴が鳴り、緑川は機械的な調子で立つとドアを開けた。白いワンピースのズザンナが、緑川の手紙を持って立っていた。緑川は自分の目を疑った。
 上がっていいですかとズザンナは聞いた。緑川は声が出ず、ただ頷いた。二人は卓袱台に向かいあって座った。しかしズザンナは緑川に近づいて、斜めに話す形になった。緑川は自分の震えているのに気がついたが、一切言い訳はしないことに決めた。そして今にもワインを開けたい気持ちに抗って、王女の判決を待った。ズザンナの青い真面目な瞳に緑川は吸い込まれた。
「あたしがまだこんな子供なのに、おじさんはあたしが好きなの?」
緑川は寧ろきのうのことを断罪して欲しかった。ズザンナはなぜ責めてくれないのかと思った。しかし、責められたら生を断念することに緑川は決めていた。
 毒念の発作に駆られそうになりながら、緑川はズザンナに、自分の異常な性向、レナータとのこと、寝ているズザンナにしたことを語り尽くした。海のような色のズザンナの瞳に吸い出されるように、またそこへ投げ捨てるように緑川はまくし立てた。ズザンナは一言も返さず聞いていた。
 話すことのなくなった緑川はズザンナの反応を待った。心はからになっていた。その緑川にズザンナは、
「おじさん、どこにも行かないでそばにいてね。」
と涙を流し、緑川の手を握った。そして昔のようにその手を、今は少し娘らしくやわらかな胸へ、祈るように押し当てた。
 その日曜日、緑川はズザンナと一緒に初めて教会へ行った。

 その後の一週間、緑川はレナータに会うことも何故かなく、ズザンナとはそもそも日曜日にしか会わなかったから、酒以
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