生命の木
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ンナの幼い胸に頬で甘えてみた。
本当に尊敬している人間に、動物的な性質を、もっと言うなら糞尿などを重ねて見たくはないものだ。子供が女親の股から生まれてくるなどということも、母のイメージにおよそそぐわぬ嫌なものだ。緑川はもう一度ズザンナの同じところを初めから嗅いでみた。そして、思い出のようになっているその高貴さと尊敬の念とがそれに全く影響を受けないことに喜びを覚えた。改めて緑川はズザンナの存在を見上げた。今なら手が届くそこへの思いを積極的に諦めて、緑川はスカートを戻してやり、わざと大きなくしゃみを自分でした。
ズザンナは飛び起きた。緑川の顔を見て、ごめんなさい、寝ちゃったと言った。
昼、二人はスパゲティーを作って食べた。料理はあまりしたことがないとズザンナは言った。ソースはインスタントだった。そのあと緑川は朝しようと思っていた散歩をするためズザンナのもとを出ていった。
この晩、緑川は酒を飲まず、床に入るとズザンナにあたたかく抱かれた気分でよく眠った。
退社後、緑川は遠回りして古本屋に立ち寄った。真面目に勉強がしたい気分だった。何軒か回ってドストエフスキーの昇曙夢による古い訳本を見つけた緑川は、高額なのにもかかわらず喜んで手に入れた。電車に乗るまでの待ち時間に読み、訳者の思い入れも訳文に反映するものだと思いながら、気がついたことがもう一つあった。本の中の人物にズザンナを探していたことである。昨日のことがあってから特に、緑川の心の中でズザンナが大きな位置を占めているのに今、気がついた。それは恋の感覚だった。体のことがあると男は具体的な関係を求めるらしい。尊敬を伴った恋愛の感情を描くドストエフスキーに親しみを覚えたのは当然だったかもしれない。ノヴァーリスがゾフィーに寄せた愛のことも思い出し、自分もそういうことができるだろうかと考えた。乗車して、続けて読み進んだ。
ふと上を見ると、「小学生女児また全裸で保護 同一犯か」という記事が目にとまった。緑川は嫌な気がした。
ズザンナに手紙で思いを告げても大丈夫だろうと緑川は思った。しかし、両親は理解しないに違いない。
突然、ぽんと膝を叩かれて緑川が本から顔を上げると、隣に少女が座っていた。緑川は初めて、はっきりした頭で少女の顔を知った。少女は一瞬とまどったような色を瞳に浮かべた。しらふの緑川を少女も知らなかったからだろう。
少女は緑川に付いてきた。緑川はここで初めて少女にその素性を尋ねた。進学塾に行っていること、母親は夜の仕事で朝にならないと帰らないこと、父親はいないこと、などを少女は語った。緑川のところに来ていることは母親は知らないし、言っても仕方がないとも言った。それから、学校にも友人は特にいない、死にたい人の気持ちがよくわかると加えた。来ている時に緑川が何をしたのか覚えているかとは
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