第一章
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第一章
ニヒリズム
彼はだ。全てを諦めきった、そんな笑みでこんなことを言った。
「下らないね」
「おいおい、またかい」
「またそう言うのかい」
「言いざるを得ないんだよ」
ポーカーをしながらだ。友人達に言うのだった。
ここはペテルブルグの賭博場だ。ミハエル=ビサリスキー伯爵は退屈に疲れきった顔でだ。トランプのカードを手にして言ったのである。
「どうしてもね」
「何だい、タスカーかい?」
「それになったのかい?」
「そうだね」
タスカーと聞いてだ。伯爵は友人達にそうだと答えた。見れば金髪を奇麗に後ろに撫で付け青い色の目も何処かうんざりした感じだが流麗である白い彫のある顔に口髭を生やしている。長身をタキシードに包んでいる。
その十九世紀そのものの格好でだ。彼は友人達に言うのである。
「タスカーだよ」
「君は最近それにかかるね」
「何かっていうと」
「退屈なんだよ」
伯爵はたまりかねた口調で言う。
「外に出ても。今は」
「冬だからね」
「雪と氷しかないからね」
「何もできないさ」
ペテルブルグはロシアでもとりわけ北にある。それでだ。
寒さもかなり厳しいのだ。雪も氷もかなりのものだ。だから外にも出られないのだ。
だから余計にだ。伯爵はこう言うのだった。
「全く。カードばかりしてもね」
「飽きるかい?」
「勝っても負けても」
「飽きるよ。音楽も食事もウォッカも」
そうしたあらゆることについてだというのだ。
「塞ぎ込むことに対して何もできないさ」
「一時は消せても根元はどうにもならない」
「そこが辛いんだよね」
「退屈で仕方がないよ」
伯爵はカードを放り出してしまった。遂にだ。
「どうしたら退屈でいられなくなるかな」
「歌劇はどうだい?」
友人の一人がこれを勧めてきた。
「チャイコフスキーでも」
「いや、最近それもね」
うんざりとした顔でだ。伯爵は右手を横に振って述べる。ひらひらと動くその手も何処か疲れた感じだ。
「飽きたんだよ」
「何だ、歌劇もかい」
「バレエもね」
それもだった。
「飽きたよ。部屋の中でボクシングをしたりフェシングをするのも」
「飽きたんだね」
「どれも飽きたよ」
また言うのだった。
「何もかもね」
「飽きてばかりだね」
「つまりは」
「そうだよ。何もかもに飽きたよ」
こう言うばかりだった。
「一日を過ごすことすら辛いよ」
「生きることすら辛いっていうのか」
「そうだよ。そうなってきたよ」
伯爵は言っていく。
「それならどうしようか」
「そこまで言うのならね」
ここでだ。また友人の一人が話す。
「賭けをしないかい?」
「賭け?」
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