第九十八話 道場にてその十
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彼と闘う。斬り合い突き合っていた。二人の攻防が続いていた。
そしてだ、二人共だった。
何百、いや千を優に越えて剣撃を出し合ってだ、外がすっかり暗くなった頃にだ。
遂にその氷水も炎も消えた、そうして。
二人共同時にだ、その場において構えたまま言った。
「中田さん、有り難うございました」
「こちらこそな」
「攻め方確かに教わりました」
「身に着けてくれたな」
「はい」
その通りだというのだ。
「これで」
「ならいいさ、もうな」
「これで、ですね」
「力が尽きたぜ」
中田は満足している笑顔で言った。
「これでな」
「僕は、いえ」
ほんの一滴だった、だが一滴でもだった。
上城が持っている剣から水が滴った。しかし中田の両手の剣には火の粉すら全くない。それこそがだった。
勝敗だった、中田は微笑み上城に言った。
「君の勝ちだぜ」
「そうですか」
「さて、闘いは終わったからな」
「これで、ですな」
「ああ、俺の最後の闘いは終わったよ」
それでだというのだ。
「満足したよ、じゃあな」
「それではですね」
「これでいいよな」
中田は今度は今道場にいない者に対して声をかけた。
「あんたも納得してくれたか」
「納得しなければどうされますか」
声だった、彼女が中田の言葉に応えてきたのだ。
「その場合は」
「そこまで考えてないけれどな」
「貴方は最後の最後まで闘いました」
中田自身が言った最後の闘いをだというのだ。
「ですから」
「それじゃあいいよな」
「剣を横に置かれますね」
「そうさせてもらうぜ」
こう応えてだった、そのうえで。
中田は彼の剣二刀流のそれを己の足元に自分から見て横に水平に置いてだった、そうして宣言したのだった。
「降りるぜ、これでな」
「わかりました」
声が受けるとだった、それで。
二本の剣が消えた、これで中田の闘いは終わった。
中田は満足している顔でだ、あらためて声に言った。
「じゃあな」
「はい、それでは」
「俺は戦いから降りた、じゃあな」
「貴方は自由です」
「これからは家族と仲良く暮らすか」
「そうされて下さい」
声が認めた、その中で。
彼女の気配は消えた、そうして中田はその気配が消えたのを見届けてからそのうえで聡美達に顔を向けて話した。
「あんた達には世話になったな」
「いえ、それは」
「お陰で俺はまた幸せに暮らせる様になったよ」
こう言って礼を述べるのだった。
「有り難うな」
「左様ですか、それでは」
「このお礼は何がいいだろうな」
「それはいいです」
聡美はすぐに中田に答えた。
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