さくらのおとぎばなし
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‐あ…桜……
あの日見た桜の花は、淡く儚い夢のようで、風に舞う花弁が今も目に焼き付いている……
西暦1992年4月29日、この日の重慶は春の日差しが暖かく、心地良い風が肌を撫でる。
ハンガー区画の裏手に有る桜の木を見て、私の好きだった淡い桜とは違う白みがかった花を見て、ふっと故郷の並木道を思い出していた……
「少尉、そろそろです」
「分かりました、行きましょう」
後、何度あの花を見られるだろうか……
そんなことを考えたが、縁起でもないと考えを頭の端に追いやる。
対BETA戦争が端を発してから既に30年近く立ち、世界人口は最盛期の約半数まで減少、それに伴うBETA支配域拡大は人類だけでなく地球上の生物が生きる場を奪われていた。
そして、ここ重慶はそんな人とBETAが隣接し、何時終わると知れない不毛の戦いを繰り返す¨人類の最前線¨なのだった……
「今日は珍しくBETAも来ないし、裏手で花見でもしようぜ」
そんなことを言い出したのは、お祭り好きの中隊長だった。
私の所属する日本帝国陸軍第182戦術機甲中隊は、大陸派兵軍の補充としてBETAの暫減に従事していた。
重慶に来て既に二ヶ月、季節は春である……しかし、そんな陽気とは裏腹に戦線は疲弊し、何時この場所が陥落するとも分からない、余談が許されない状況であった。
そんな中で花見をやろうと言い出した隊長には、正直頭が下がる。当然、周囲の人間からは冷ややかな目を向けられたが、私は隊長なりに部下へのガス抜きを考えていたのだと思う。
「もう折原中尉も出来上がってますよ……」
「あの人は何時もですよ」
中隊次席は暇が有れば何時も呑んでいるが、実際の所は他の成人を迎えているメンバーは飲んだくればかりである。
更に、輪をかけて花見の席だからと呑んで呑んで呑みまくっている。
「仲宮少尉は、混ざらないんですか?」
「花を見るだけで良いの……」
花を見上げて、風を感じる……
明日も平和で有ればと、そう考えずには居られなかった……
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