第一章
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第一章
また夢を
ギタリストだった。かつては。
だが不意の事故によってだ。彼はだ。
その腕を怪我してだった。そうしてなのだった。
「おい、そんなことは」
「ですがもう」
「ギター、駄目なのかよ」
「日常生活に支障はありません」
それは大丈夫だとだ。医師はその彼、渚玲に告げていた。
背は高くすらりとしている。まるでモデルの様なスタイルだ。
顔は白く目は細い。その細い目がきりっと引き締まっており眉は細いが色は濃い。
黒髪を長く伸ばしておりそれが如何にもギタリストといった感じだ。だがその彼だが。
今診察をしている医師にだ。こう告げられていたのだ。
「ですがもう」
「ギターは。僕は」
「はい、繊細な動きは」
「ギターは僕の命なんだよ」
玲は必死の顔になってだ。医師に対して言った。診察室に彼の荒くなった言葉が響く。
「それで弾けないなんて」
「残念ですが」
「いや、残念じゃないよ」
必死にだ。玲は医師に対して言った。言っても仕方がないことだとわかっていても。
「僕は。そんな」
「・・・・・・・・・」
医師は項垂れて沈黙するばかりだった。彼のその顔を見てだ。
彼もだ。黙ってしまった。こうしてだった。
彼はギターを諦めた。諦めざるを得なかった。それでだ。
大学にいても何をするというものでもなくだ。それでだった。
いつも虚ろな目をしてだ。そこにいるだけだった。その彼にだ。
友人達、かつてのバンド仲間もだ。心配する顔で言うのだった。
「おい、気持ちはわかるがな」
「元気出せよ」
「ギターだけが人生じゃないんだし」
「明るくなれよ」
「わかってるよ」
覇気のない虚ろな声での返事だった。
「それはね。けれど」
「けれどか」
「それでもか」
「うん。僕はもうね」
項垂れた声のままだった。その声でだ。
彼はただそこにいるだけになっていた。最早何にも興味を見せなくなっていた。
その彼にだ。同じバンドでヴォーカルだった和久井優子も声をかけた。
背はあまり高くなく顔つきは整っているが気の強そうな感じだ。目の光が強く何処かむすっとした印象を与える表情だ。茶色の髪をショートにしていて左のところにピンがある。小柄な身体に黒のジャケットにジーンズ、白のキャラクターティーシャツというロックかポップスを意識した格好である。
その彼女がだ。こう玲に言ったのである。
「ねえ。もうギターは無理でも」
「うん、何かあるのかな」
「何か他のものしてみたらどう?」
勝気そうな顔にだ。心配するものを含ませて言ったのである。
「ギター以外のね」
「いや、僕はもう」
「あのね。そういうのは向こうから来るのじゃなく
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