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王道を走れば:幻想にて
第一章、その1:どうしてこうなった
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く頼るようにする」
「そうそう!!泥船を漕ぐ様な気持ちでいなさい!」
(沈んだら意味ないんじゃ..)
「木の船が腐っていたらそっちの方が大変だけどね」
「心を読むな。あと、下も着替えるから出ていってくれ」
「はいはい、覗いたりしませんよっと」

 軽口を置いて実晴が出て行くのを確認して後、慧卓はズボンを正装のそれに着替え始めた。
 正装に身を包んだ彼は実晴と共に店内へと歩いていく。通路を抜ければ、其処は彼と彼女の戦場だ。二人で深呼吸をすると、実晴が先に躍り出た。

「さ、お客様方!うちの若い男の子が出勤してきましたよ!」
「いらっしゃいませ、お客様方。本日は当店にお越しいた、だ、き......」

 愛想よく、自然な笑顔で。店長より口酸っぱく言われている事を彼は実践しようとし、瞬間、ソファに座り込むそのお客様方の容貌を見て凍りついた。

「あらぁ?中々いける男の子ですわ。特にあの胸板とか、正に好み...ジュルジュルジュルっ」

 奇奇怪怪。

「ほんとに、ゴンザエ子さん?でも良く見たら、あの子、いい面構えをしていして好みだわぁ」

 理解不能。

「あら熊美さん、ああいうのはベッドの上では攻めなのよ?百戦錬磨の譲子が言うんだから間違いないわ」

 面妖。

「ぼくぅ、そんなところに立っていないで、この私の、竜子の膝の上にお・い・で」

 様々な熾烈な言葉で表せない程の恐怖と驚嘆が慧卓を襲う。ソファに座るは四匹の色鮮やかなゴリラ・・・もとい四人の複雑な人間だ。女性らしい厚く艶やかな化粧に肌を包み、男らしく広がった肩幅を隠すように御淑やかな女性用の和服を纏っている。
 手の甲に繁る毛を際立たせるように、竜子がドスの利いた低い声と共に手招きをする。
 譲子が紅色の唇を指先で撫で、己の歪な美しさをするりと強調する。
 熊美は静かに色目を利かせた視線を御条の瞳に注いでいた。纏め上げた髪の毛に差された、樫の花を象ったかんざしがきらりと光る。
 そしてゴンザエ子は舌を獣の如く鳴らし、露骨なまでに倒錯的な表情を浮かべて慧卓に挑発をした。

「............」
「じゃ、じゃぁ慧卓、私は後ろでおつまみ作っているから、がんばれぇー」
「逃げんじゃねぇぞ......お前も付き合えよ、実晴?」
「ら、ラジャー」

 逃げ出そうとした実晴の肩を掴み、己の地獄巡りに無理に付き合わせると、慧卓は開き直って果汁ジュースとグラスと取り出して、今度こそ朗らかな笑みを浮かべた。
 御条慧卓の友達にもいえぬ掛け持ちバイト。酒飲み嫌い、下戸の方々に救いの手を差し伸べる、BAR『カシス・グラス』。その店は、勤木市の中心街、ネオンの煌きを放つ街中でひっそりと、そのささやかで賑やかな営業を始めた。



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