第一章、その1:どうしてこうなった
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ぎて建替えた高層ビル群は、早くもネオンの光を放っている。勤務を定刻通りに終えた者達が大通りを歩き、己が欲を発散せんと歩いていく。駆け抜けていく車の列を越して、ゲームセンターの狂音や賑やかな人々の喧騒、若者達の笑い声が通りを鳴り響いた。
慧卓はそれらの光景を一瞥して街を歩いていく。客引きの声に耳を貸さず、ティッシュ配りの美人に会釈をして通り過ぎる。車の近道となっている細道へと身体を滑らせ、その脇に佇む建物の裏口の網膜・指紋セキュリティーを解除し、扉を開けた。
「おぉ、待っていたぞ、若いの」
妙に演義臭いしわがれ声と胡散臭い語り口で、ロングスカートのメイド服を着た若い女性が慧卓を出迎えた。色白の肌は女性の艶を瑞々しく光らせている。長い黒髪は後ろに束ねられ、前髪は可愛らしい兎のヘアピンで留められている。藍色の瞳がきらきらと悪戯げに輝き、頬を緩めて女性は続けた。
「この世は事情は奇奇怪怪。真の仁義は真の外道、誠の心は真の容喙。流れる金貨に表裏無く、唯悪意と恣意が蔓延り踊る。その闇に善意の光は注ぐ事無く、無碍に光は消え去るのみ」
女性は風を受け止めるように腕を広げる。女性らしさを象った身体を広げ、まるで己の言葉が神の言葉と等しきものと言うが如く、女性は鷹揚に続けた。
「而して臆する事勿れ。深遠を覗く我が慧眼と千里眼を以ってすれば、汝を覆う闇は忽ち掃われる事であろう。さぁ委ねよ。その無用な衣服を取り払い、無垢で逞しい肉体を露出させーーー」
「てゐ」「たはー!」
小気味良く軽い叩きに、女性は思わずそれに合わせて軽い声を出してしまう。慌てて声をしわがらせて女性は言う。
「な、なにをするか、若いの!これは神聖な儀式なのであるぞよぉ!」
「(ぞよ?)人の身体を露出させるのが神聖だと?実晴(みはる)、自分が露出できないからって人にさせるのはーーー」
「馬鹿にするでない!こう見えてわしは着痩せするだけじゃ!!露出できないほど貧相な身体をしておらんわ!」
「いや、其処まで言ってないんですけど」
若干口を尖らせて言う女性、実晴の勢いを宥めつつ慧卓は屋内を歩んでいく。バックルームに辿り着くと、己のロッカーの引き戸を開けて上着を着替え始める。
「兎も角、仕事はしっかりこなしてくれ。ほれほれ、はよぅ着替えろ着替えろ、客は待ってはくれんぞぉ」
「分かってるからその卑猥な手付きをやめろ!」
ついて来た実晴が僅かにいやらしさを滲ませた笑顔で指先をせわしなく蠢かせる。学校でプールの授業が始まっているために羞恥心を覚える事は無いが、それでも抵抗感は出る。実晴から距離を取って着替える慧卓は早々に上着を脱ぎ、肌を顕にした。
若さの特権であろうか、華奢に見える体躯は見詰め直せばちゃんと筋肉で引き締まっている事が分かり、肌
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