第一章、その1:どうしてこうなった
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はあるな、あの『ハゲイロ』なら」
ハゲで同僚に色目を使うデブ、略してハゲイロ。本人もその直接的で不愉快極まる渾名を知っているのか、生徒らに目を光らせて、それを口走った者に大量の宿題を課す事をささやかな復讐としている。だが生徒達にとっては、『ハゲデブにしないだけまだましと思え』との認識であるため、改善の余地は一向に無い。
話を混ぜつつ通りを二・三も跨いで歩けば、自然に人波も疎らとなり、日は早くも西に傾き始めた。
しぶとい繁盛っぷりを見せる昔ながらの商店街の入り口を通り過ぎれば、閑静な住宅街へと差し掛かる。市の外れの方に位置するこの地域では小さな一軒家が多く立ち並び、中には昭和の薫りを残す家屋すらある。彼らの未来を生きる現代人はその家屋に言い知れない郷愁を感じるのであろうか、例を漏れず御条も視線をつい走らせてしまう。
己よりも背を伸ばした影が揺れ、緩やかな坂道を上る二人にのっぺりと追従する。
「御条、この後用事は?俺家で着替えたら三沢達と一緒に中心街に遊びに、ほら、ボーリングとかビリヤードやりに行くんだけど」
「お前も大概おっさん趣味だな。今日びの若いモンはんな渋い遊びなんかやらないっての」
「若い奴は『今日び』って言葉自体使わないって」
「違いねぇや」
猪村は制服のポケットから長方形の掌程の電子タブレットを取り出す。茜色の陽射に橙色のカバーを嵌めたタブレットが反射する。緑色の空間モニターを展開してメールの確認の指を走らせて猪村は言う。
「人の趣味嗜好にはある程度の自由があるのさ。で、どうよ?」
「悪い、今日はちょっと用事があって行けそうにも無いわ」
「そうか、珍しいな?最近バイト止めてから暇してたんだろ?てっきり時間に融通が利くって思っていたんだけど」
「まぁ、な。でもこればっかは駄目だ、悪い」
若干真剣味を帯びた慧卓の顔を僅かに見遣り、猪村はタブレットをしまい直しながら言う。
「・・・ま、俺は詮索したりはしないさ。好きにしたら?」
「サンキュ。何時か埋め合わせをするからさ」
「あいよ、期待して待っている。んじゃ俺はこっちだから」
「あぁ、また明日!」「またな」
十字路を右に曲り、猪村は住宅街を足早に駆け抜けていった。慧卓はその後姿を僅かに眺め、己の帰路へと足を向けた。
坂を上り終わる頃には、茜色の空が天上に広がっており、我が子を自慢する鴉の鳴き声が駆け抜けていった。
慧卓が向かうは住宅街の一角。その一角に身を置いた小さなマンションの中に慧卓は入り込んだ。エレベーターの五階のスイッチを押し、着いて左に曲って二十歩。彼の家だ。
「...ただいま」
それに答える者は居ない。一人家族から離れてマンションに住まう者の侘しい光景だ。慧卓は部屋に上がって私服に着替える。ま
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