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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百十四話 暗闘
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を浮かべた。
『まあ負けてから和平を結ぶより勝っているうちに和平を結んだほうが有利なのは確かだ。そういう意味では言い出すタイミングは間違っていない。なかなか難しい事だけどね』
ヤンの言う事は正しいだろう。負けてからの講和は極めて難しい。条件が厳しくなるのだ。それは講和に納得出来ない強硬派をより強硬にさせるだけだ。
『それに放置すれば主戦派が帝国領侵攻を主張すると危惧したのかもしれないよ。同盟市民もそれに同調するんじゃないかとね。だから先手を打って和平論を打ち上げたのかも』
「なるほど。しかし主戦派はどう出るかな? このまま和平をすんなり認めるとも思えんが……」
『巻き返しは有るだろうね。戦争継続を訴える筈だ。簡単に和平とはいかないはずだ』
ヤンが難しい顔をしている。トリューニヒト議長は如何考えているのか、そしてヴァレンシュタインは……。
「よく分からんのがフェザーンの扱いだな。ボルテックは死んだし八十人委員会は事実上消滅した。どうなるんだ?」
ヤンが“うーん”と唸って髪の毛を掻き回した。
『自治領主を選出する事が出来なくなった。統治者が居ない以上占領して併合するのかと思ったけど政府は独立を保証すると言っている。しかしだからと言って総司令官代理はフェザーンの統治者を選定しているような気配もないようだ。政府からの指示待ちかな?』
「ほう、間違いないのか?」
『選定しているような気配がないのは事実だと思うよ。キャゼルヌ先輩が言っていたからね。先輩も困惑していたよ』
「政府と総司令官代理の間で意見の相違が有るのかな? 一致していたのは地球教の排除までだったとか」
ヤンがまた唸った。
『なるほど、その場合対立点は真に独立させるか、それとも傀儡を立てて名目だけの独立にさせるか、そんなところだろう』
「……どっちがどっちかな?」
『さあ、どっちがどっちかな?』
お互い、はっきりしない言い様だ。だが大体は想像がつく。おそらく政府は傀儡を立てることを望んでいるのだろう。フェザーンの経済権益を手中にしたいに違いない。ヴァレンシュタインはそれに反対している。だから傀儡を選ぶようなこともしていない。しかしこのまま放置するのか? それはそれで問題が有りそうだが……。
「帝国が劣悪遺伝子排除法を廃法にしたな。随分と踏み込んだものだ」
『門閥貴族が没落し帝国政府は遺伝子の妄信を否定した。同盟から見れば和平のハードルはかなり低くなった。同盟市民への説得もし易い。それにしてもフェザーンの独立を保証した直後の発表というのが意味深だね』
ヤンが含み笑いを漏らした。
「確かに」
『多分総司令官代理は帝国との間に和平を結ぶことを優先させるべきだと考えているんじゃないかな。フェザーンの経済権益を得ても戦争が続いては意味が無い』
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