第百五十九話 巨寺その五
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「あの寺は攻められぬ。それとじゃ」
「それと?」
「それと、といいますと」
「明や南蛮の書にあるが」
信長は寺を見たまま二人に言う、今度言うことはというと。
「大砲じゃが」
「大砲ですか」
「それをですか」
「持って来るべきやもな」
石山御坊攻めにだというのだ。
「その方がいいやもな」
「砲で寺を攻めますか」
信広が信長に問うた。
「そうすべきだというのですか」
「うむ、前から考えておったがな」
「石山を攻めるのにですか」
「役に立つやも知れぬ。実際に明や南蛮ではそれで壁に囲まれた堅固な城も攻め落としているというからのう」
「では砲もですか」
「これからは」
「造らせるか」
信長はその目を鋭くさせて言った。
「それもな」
「砲も使われるとは」
「そうされますか」
「鉄砲だけでなくな」
それもだというのだ。
「戦に必要ならな」
「そしてあの寺を陥としますか」
「石山も」
「そうじゃ、それにじゃ」
寺、即ち城を攻めるだけに使うのではないというのだ、砲は。
「外での戦でもな」
「そこでもですか」
「砲を使われますか」
「やはり明や南蛮でも使われておる」
外の戦でもだというのだ。
「だからじゃ」
「城でも兵にも」
「砲を使われますか」
「そしてその為にですか」
「砲を造らせるのですか」
「そう考えておるのじゃ」
それが今の信長の考えだった、彼はこれからの戦に鉄砲だけでなく砲まで使おうと考えているのだ。そうして。
その話をしてからだ、信長は二人の弟に告げた。
「では天王寺での戦の時はじゃ」
「はい、我等はこのままですか」
「ここの守りですな」
「そうじゃ」
それを頼むというのだ。
「よいな」
「わかりました、それでは」
「我等はこのまま」
「竹千代と鬼若子は連れて行く」
この二人とその軍勢は、というのだ。
「どうも雑賀衆は手強い様じゃからな」
「その雑賀衆ですが」
信広が言って来た。
「数は然程多くないので」
「数はか」
「そのことはご安心下さい」
「だといいがのう」
「といいますと」
「雑賀衆の数が少なくともじゃ」
それでもだというのだ、例え彼等が少なくとも。
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