面白ければ何でも良い。
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は穏やかに微笑んでいた。 しかし、その片頬を一滴の涙が静かに伝い、ポトリと床に落ちる。
「わ、あれ? なんでだろ。 あは、見られたの初めてだから、かな。 ごめんな、変なとこ見せて」
「い、いや、別に……」
慌てて涙を拭い照れたように笑うヒイラギにシリウスは何と言えば良いのか分からず、ただ立ち尽くした。
「あ、そうだ。 魔術理論の課題、忘れ物してたよ。 明日提出だから無いと困るだろうなって、後で届けに行こうかと思ったんだけど、俺が行ったら逆に迷惑かもって悩んでたんだ。 戻ってきてくれて丁度良かった……はい、これ」
「あ……ああ。 悪いな」
シリウスの席から忘れ物の課題をとり、まだ恥ずかしさがあるのか照れた様に笑って手渡してきたヒイラギに、シリウスは己の口から自然と『悪いな』という言葉が出たことに驚いた。 今まで高すぎるプライドが邪魔をして、目上の者以外には感謝の言葉も謝罪の言葉も言えたことが無かった。
「じゃ、俺もう行くから。 また明日」
「――……」
笑顔で手を振り、おそらくは自分の寮へ戻っていくのだろうヒイラギの背中をシリウスは黙って見送った。
反貴族派の平民共に祭り上げられ、そのリーダーのような立場のヒイラギであるから、大貴族の息子でSクラスのエリートであるシリウスが忘れ物などという失態を犯したのを知れば鬼の首をとったかのように侮辱してバカにするに違いないと思い込んでいた。
しかし、実際にはシリウスの失態をバカにするどころか、心配して届けるか悩んでいたという。
人格者と言う噂が事実であったことを今のシリウスは素直に信じることができた。 そして、そんな相手を勝手な思い込みで一方的に見下していたのだという事実にシリウスは自分を恥じる。
――立場上、色眼鏡で見られることの煩わしさは知っていたというのに。
己の愚かさに呆れ、シリウスは無意識に忘れ物の課題をくしゃりと握りつぶした。
そんな自分を軽蔑すること無く柔らかな笑みを浮かべて話しかけてくれたヒイラギ。
そんな彼の、死んでしまった両親に手紙を送る姿と、その後に見せた一粒の涙が脳裏に焼き付いて離れない。
平民でありながらあの高価なレターセットを買うのは大変だっただろう。 彼はどんな気持ちであの便箋に手紙を書き、燃やしたのか。
両親が健在で、過保護な程に愛され守られている自分には決して分からないであろう。 それ故に、彼のその姿が純粋で美しい、何か神聖なものにすら思えた。
「――また、明日」
完全にヒイラギの姿が消えてしまってから、シリウスはそっと呟いた。
(愚かな平民風情と思っていたが、愚かだったのは俺の方だった様だ。 奴の実力ならば、卒業後も何かと関わることになるだろう。 そう、長い付き合いになる
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