おかあさん。
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『あんたなんか、産まなきゃ良かった……! 出て行け、出て行け――!』
しんしんと真っ白な雪が安アパートのベランダに降り積もる。
その隅に、一人の幼い子どもが、ほとんど下着のような格好で、それでも僅かな暖を逃さぬよう身を縮こまらせていた。
実の母親に罵倒され、ベランダに押し出されてからどれほどの時間が過ぎただろうか。
まだ生まれて三つにも満たない子どもの身体は冷え切り、すでに身体の感覚は無い。 真っ青な唇を噛み締め、ただ迫りくる睡魔に対抗していた。
もし、もっと早く大きな声で助けを求めていれば、助かっていただろう。 しかし、彼は決してそうしない。 その選択が、彼の母親を苦しめることになると幼心に察していたからだ。
そして、今となっては大声を出す力すら残っていない。
子どもの懸命な抵抗はついに終わりを迎えようとしていた。
遠のいていく意識の中、幼子が最期に思うことは――
(ごめんね)
――母親に対する謝罪であった。
(うまれてきて、ごめんね)
子どもは、己が望まれず生まれてきたことを知っていた。
(もっとぼくがおおきくてつよければ、ままのことたすけてあげられるのに)
子どもは、自分が居なくなれば母親が孤独になることを知っていた。
(もう、だめみたい。 よわくて、ごめんね。 ぼく、さびしがりやなままのこと、ひとりぼっちにしちゃう。 だめなこで、ごめんね)
子どもの身体は、大勢の『父親』達により、傷だらけだった。
煙草の火を押し付けられた痕、殴られた痕、明らかに遊びでつけられたような切り傷のカサブタ、痕が残らずとも水に沈められ溺れそうになった記憶は子どもの心に深い傷痕を残している――そんなボロボロの身体を、抱きしめるように縮こまらせて、ほどんど視覚が無くなりつつある瞳から涙を一滴零す。
(だいすき、だいすき、だいすき……――大好きだよ、まま)
子どもの身体から力が抜け、痩せ細った腕がぽとりと雪の上におちた。
――カラカラカラ
軽い音を立ててベランダのガラス戸が開いた。
一人の男がベランダに出て、煙草に火をつけた。 そして、子どもに気付く。
「んー? ……あ、死んでる。 おーい、お前の子ども死んでるぞ」
「嘘。 見ないと思ったら――。 ……あ、そういえば、追い出したの忘れてた」
「ひでーオカアサンだな。 どーすんの?」
「……ゴミ捨て場にでも捨てとけばバレ無いかな?」
「あーあ。 俺知らねーぞ」
――――――
――――
――
子どもがふと目を覚ますと、そこは闇の中だった。
どこか暖かくて、懐かしい。 そこにはずっと求めて止まなかった安らぎがあった。
しかし、子どもが何か考え
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