他が為の想い
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で俺達に近付いてくる。
――全てを奪って、俺が幸せを与えるんだ
ふいに、思考にノイズが走り、虎牢関での白の世界の記憶が鮮明に思い出された。
――世界を変えろと言うのなら、俺にその為の力を寄越せ。俺はもうどうなってもいい。ぶっ壊れて、平穏な世界に生きられなくていいから
懐かしい白の世界で、一人の少女の笑みが深まっていた。
――たった一人の大切なモノを守れない奴が、世界なんざ変えられるわきゃねぇだろ……だから
矢の壁を弾き飛ばしながらも、ノイズは大きくなり、視界も、思考も、全てが……
「俺にっ……あいつを守る力を寄越しやがれクソガキがぁ!」
全てが白に包まれた。
†
真っ白な世界にぽつりと佇む少女に懐かしさを感じていた。
ただ、胸の内に溢れる憎悪は留まる事を知らず、武器があるなら切り殺したやりたいと、秋斗は感情を叩きつける。
涼やかな、見下すような瞳で受け流しながら、にやりと三日月型に口を引き裂いていた少女は指を鳴らし、それを合図に暗転しているモニターが現れた。
「一回しか使えないモノをただ一人だけ助ける為に使うなんて……後悔しますよ? 一つだけ聞いておきましょう。お前は自分の幸せを投げ捨ててでも世界を変えたいんですね?」
唐突に発された一言に秋斗はさらに怒気を溢れさせた。
(お前が好きに動けと言ったんだろうが。俺の幸せなんざいらねぇから、雛里を救わせろ)
ため息を一つ。その少女は宙に手を掲げて、キーボードを取り出してカタカタと文字を入力していった。
「心に留めておいてください。今回の暴走のせいで『世界側の強制介入による認識操作』が入りますからお前だけは絶対に幸せになれません」
最後の一文字、そしてエンターキーを大きく鳴らすと……秋斗の思考はぐるぐるとまわり出した。
(知るかよ……あの世界に生きて、る奴らが……雛里が幸せ、ならもう……それで、いい……あいつ、が願うなら……俺のも、掴みとって、やる……バカが)
靄のように、その場から秋斗の存在が消え去った。
何も音が無く、少女以外の気配のないその空間に残ったのは怒りの後の静寂だけ。
プツリとモニターの電源が入り、その少女が目を向けると画面には血の海が映し出されていた。
黒き衣を纏い、居並ぶ敵兵も、向かい来る矢も全てを薙ぎ払い、壊していく存在がそこにあった。
その姿に憐憫の瞳を向けて、茶髪の少女は一人、懺悔のように言葉を紡いでいく。
「この外史は発生が特殊なので一つの存在が認識されずに噂だけで留まっていましたからね。
本来は確率収束点付近もしくは以降で使う事によって存在定着率を半分下げ、ぼかした状態ならお前自体も幸せになれるはずだったんです。
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