他が為の想い
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体、そこかしこの肉を抉り飛ばし、幾重もの剣は彼の大きな身体を切りつけて行く。
しかし、黒麒麟は止まる事をせず。
思考も、感情も、想いも、願いも……全てが一人を生かす為に収束されていた。
自分の代わりに役割を押し付ける多大な罪悪感も、生きていたら幸せになれるのだと信じて。
愛しい彼女が幸せになれる未来を願って。
どれほど駆けたのか、どれほど敵を殺したのか、どれほど殺されたのかも分からないままに、彼らは進んで行く。
遠く、丘の上にある陣の外でそれを見ていた郭図は恐怖に取り込まれて……いるはずも無かった。
「クカカ、頑張れ頑張れ。ほらもうすぐだぜ? そこは兵を少なくしてやったんだから、もうすぐ兵の壁を抜けられるんだぜ黒麒麟ちゃんよぉ! でもざぁんねん! そこには何がいるか考えてないのかなぁ!?」
楽しそうに、壊れる寸前のおもちゃで遊んでいるかのように、郭図は高らかに笑った。
人が死ぬ事には拘らない。どれだけ殺されようと構わない。自分の目的さえ達成出来れば問題は無い。
兵は駒、足りなくなったのなら集めればいい。無理なら簡単な手段で敵を殺せばいい、と。
郭図は勝ちを確定と見て、一つの伝令を飛ばした。
「文醜には分岐点まで陣を下がらせろ。もうあいつの追撃も必要ねぇ。大徳は屈辱と絶望の果てに袁家に頭を垂れる。張コウや田豊の奴が裏切り者になるかどうかの……楽しい余興に使わせて貰うぜぇ」
にやりと三日月型に口を歪めた後に、本城に到着したであろう明達のこれからを考えて、控える兵が持っていた杯を掲げた。
後少し、ほんの少しで兵の壁を突き抜ける。
思考を戦闘にのみ向けていた為に、俺はそれが来る事を考えていなかった。
漸く、抜けた。後は笛で月光を呼び寄せ、副長に駆けさせるだけだと思っていた。俺が殿を勤めればいいと、そう思っていた。
ただ……現実は無情だった。
眼前に広がるは数多の列を為した弓兵。
先ほどとは違い、膝を着いた直射の構えで狙いを定め、円形に陣形を組んでいた。
誰でも分かる程に逃げ場が無く、蹂躙するにも距離が遠く、俺一人ではどうしようも無かった。
俺の脚がピタリと止まった。後続の徐晃隊は敵の壁から溢れ出し、俺と同じように脚を止めはじめた。
胸に来るのは絶望だった。
もう、雛里を生かす事は出来ないのだと、心が折れかけていた。
しかし、あの子の笑顔を思い出せば、折れるはずも無かった。
――いやだ
ポツリと、小さく胸の内に火が燃えた。
――好きな女一人守れないのは……いやだ
抗う心は絶望を理解して凍った頭をかき乱しながらも溶かしていく。
――奪う側は俺だ
眼前に居並ぶ兵列からは遂に矢が放たれ、スローモーション
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