他が為の想い
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立ち上がった副長は、人より大きな体躯の為に戦場がよく見えた。
膨大な金色が埋め尽くし、剣戟の音が常に鳴り響いている此処はまさに自分達の生きる戦場。
抜ける為の場所は彼の前しかないと思われるが、一番に敵兵が集中しているのもそこであり、何処が抜けやすいとも言い難い。
周りを確認すると、矢傷を受けた徐晃隊員の顔色が真っ青であった。
「おい、てめぇら……まさか……」
「へへっ、どうやら毒矢が混ざってたみたいだぜ。それを喰らった俺らに残された時間は少ねぇ。まあ、タダで死ぬわけにはいかねぇな。あばよ、楽しかったぜ」
不敵に笑いながら、親指を突き立てた拳を示して、その隊員は細い隙間を縫って最前列へと飛び出して行った。
グッと、胸に来る憎悪の感情を押し留めて、副長は背中から通常より小型の斬馬刀を抜き放つ。
「御大将の右側への道を開けろ! 俺も出てやらぁ!」
秋斗の周りに行く事は徐晃隊には出来ない。違いすぎる実力から、乱戦に於いて本気を出した彼の周りにいては副長でさえ足手まといになりかねないのだ。
肩を並べる事が出来るのは燕人か軍神、昇龍のみ。だからこそ、副長はいつものように秋斗の負担を減らす道を選んだ。少しでも敵兵が自分に集中するようにと。
最前に飛び出した副長が振るった斬馬刀によって幾人もの敵兵の脚が千切れ飛ぶ。まず一列。
後ろから飛び出し駆ける徐晃隊の刺突によって突き殺す。さらに一列。
いつもなら、このまま押し切る為に強引に前へ前へと進むのだが、また先程のように矢の雨が来る可能性を考えると広がりすぎる事は出来ず、じわりじわりと纏まりながら進むしかなかった。
絶望の戦場で徐晃隊のその数――――たった八百余りであった。
真っ白な頭。思考に潜る事も出来ず、ただ作業のように淡々と、敵兵を切り飛ばしていた。
目の前の敵兵の一人は……最速の縮地からの中段蹴りで前に吹き飛ばし、合わせて向かい来る右の兵は……身体を捻りながらの切り払いで腰から下を真っ二つにした。
怯えて下がる兵に掌底を叩き込み、跳躍から真一文字に振り下ろした刃で涙を滲ませた兵を縦に割った。
哀しみに暮れる心はそのまま、憎悪に燃える感情は無い。
副長の声が聴こえ、雛里が生きていると聞いて、安堵と共に漸く俺の頭は回り出す。
ここから生き抜く為にはどうすればいいのか。
人を殺しながら考えても、既に絶望の答えが弾きだされている。
認めたら終わりなのだ。それでも、冷静に全てを判断する頭は持っている。
毒矢が混ざり、再度の矢の雨も有り得て、敵はこちらの十倍以上。抜けきる為には力が足りず、抜けきっても逃げ切るには足りない。
確実に殺す為だけに来ているのなら、降伏しても生き残る事が出来ない。
だから……雛里
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