第5章 契約
第87話 ルルドの吸血鬼事件
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俺の言葉を聞いて、安堵のため息を漏らす村長さん。そして、
「確かに、以前に訪れた騎士さま方も、それこそ念入りに村人の中に屍食鬼が紛れ込んでいないのか調べられました。しかし、この村の住人は街に暮らす人と違い、身体の色々な部分に蛭に血を吸われた傷痕や、蛇に噛まれた傷痕などが有って、その内のどれが吸血鬼の噛み痕か判らなかった」
そしてその結果、今度は、その派遣された騎士さま方すべてが吸血鬼の犠牲と成る事に因って、村人同士がお互いを疑い……。
村長さんは、其処まで口にして、其処から先は哀しそうにひとつため息を吐いたきり、言葉を続けようとはしなかった。
成るほど。
村人同士がお互いを疑い合う。この世界の農業は個人の力だけではとても熟せなかったはず。つまり、これまで村人同士の関係は非常に良好だったと言う事。
この村の規模から考えると、すべての村民は全員顔見知り。いや、機械化されていない農業が主体のこの村ならば、村全体が一戸の大家族を形成していた、と言っても過言ではなかったはず。
もし、このような村で、このまま疑心暗鬼に陥った状態が長く続いたとしたら……。
もし、其処で、誰か一人が村人の中の一人を疑い、声高にその事を訴えだしたとしたら……。
所謂、集団ヒステリーや、モラル・パニックと言う状況を……分かり易い例を挙げるのなら、中世ヨーロッパを席巻した魔女狩りのような事件を引き起こしかねないと言う事。
その悲劇的な結末を村長さんは危惧していると言う事ですか。
「大丈夫ですよ、村長」
分かり易いように大きく首肯いた後に、そう口にする俺。そして、大きくひとつ呼吸をした後、
「最初の八人が吸血鬼に殺された後に、次に我々三人が王都より派遣されて来た理由が直ぐに分かると思いますよ。
ガリアはこの村を見捨てた訳ではない、と言う事がね」
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