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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第87話 ルルドの吸血鬼事件
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…。呪文の中に精霊を支配する呪を組み込んだだけの系統魔法では、術者の精神力が余程強く……少なくとも、上位の精霊を精神力で凌駕出来なければならないので、かなり難しいと思いますから。

 そう考えながら、しかし、その中に僅かな違和感を覚える俺。
 それは、土地の守護精霊たちを、ブリギッドが『土地神』と表現した事。
 確かに俺にはガリア共通語から日本語への同時通訳技能がインストールされています。故に、今のブリギッドが確実に土地神と言う言葉を使用したのか、それとも、彼女の発した言葉の意味として俺が知って居る日本語の中で一番意味が近い言葉に意訳されたのかは定かでは有りません。
 ……なのですが、しかし……。

 少し訝しげに、地球世界で西洋の炎の女神ブリギッドと言う意味の、崇拝される者と名乗った少女を見つめる俺。

 燃え上がるような真紅の髪の毛と、強く輝く瞳は炎の属性を示すのは間違いないでしょう。
 しかし、それ以外の部分。普段の彼女は、黒髪黒い瞳。肌は湖の乙女や妖精女王と同じ象牙色。つまり、東洋人の白い肌の女性そのもの。
 そして、今の彼女の姿は、地球世界の女の子が着るセーラー服姿。普段通り、大きな蒼い襟に赤いリボン。スカートは膝上十センチの襟の部分と同じ蒼のプリーツスカート。

 ただ、姿形に関しては、古の契約により今の姿形を取っているようなので、この部分から、彼女、崇拝される者ブリギッドが実は東洋の神性を帯びる存在じゃないか、と言う仮説に対する答えを導き出す事は出来ません。
 しかし……。

 少し考える仕草で、やや幼い少女の容貌に向けていた自らの視線を、自然な形で彼女の手にする太刀の方へと向ける俺。
 そう。彼女の携えているのは太刀。見た目は八十センチちょいぐらい。日本刀に近い優美な反りを持ち、柄頭に蕨の若芽のように渦巻く特徴的なデザインが施されているところから、彼女の持つ太刀は毛抜き形蕨手刀(けぬきがたわらびでとう)と呼ばれる宝刀だと思われる代物。
 このタイプの太刀は日本。それも関東以北の地方で出土する物で有り、少なくとも、関東以西で出土した例を俺は知りません。
 更に、それが作られた時期も平安前期。ただ、優美な反りを持つトコロから推測すると、この太刀は馬上で使用される事を想定して居ると思われるので、それよりも少し時代が下る可能性も有る。

 この崇拝される者ブリギッドと表現された存在も、湖の乙女ヴィヴィアンと同じように本当の正体が存在して居るのでは……。

「何よ?」

 俺が答えを返さず、ただ彼女を見つめ続ける事に焦れたのか、少し怒ったような気を発しながら問い掛けて来るブリギッド。
 もっとも、こう言う風に割と簡単に感情が揺れ動く部分が、彼女の世慣れない雰囲気を助長しているような気がするのですが。
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