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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第87話 ルルドの吸血鬼事件
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 蒼き光の元、蕭々と響き渡るふたつの笛の音。
 俺の正面にすっと……ごく自然な雰囲気で立つ少女。夜に愛された白磁にも似た白い肌。夢幻の世界の住人に相応しい蒼き髪の毛。
 瞳を閉じ、俺と同じ横笛にくちびるを当てるその姿は天の楽人を思わせる。

 冬の属性を帯びた風に乗り、周囲へと広がって行くふたつの笛の音。
 蒼き光輝に包まれた少女の周囲を舞い、冬枯れの森を抜け、小川を越え、月明かりに照らされた山々にまで広がって行く夢幻の笛の音色(土地神召喚の術式)

 刹那。一陣の風が俺と彼女の間をすり抜けて行く。しかしその風は、冬至の日に相応しい冷たい風などではなく非常に温かな風。
 そして……。
 そして次の瞬間、ふたりの周囲にポツリ、ポツリと紅い光の粒が舞い始める。

 紅、朱、赤。それは強い生命力を指し示す赫。
 俺の周囲と、そして、タバサの周囲を舞う紅い光の粒がゆっくりとした明滅を繰り返し、それがまるで光の和音を奏でるかのようにふたつの笛の音色に同期を果たす。

 そうして次の瞬間。

「周囲の土地神を召喚しようとしても無駄」

 集まり来た小さき精霊たちが、低温の赤から青の強烈な光輝を放った後、その光輝の中心となった場所に立って居たのは……。
 腰まで有る長い黒……いや、今は霊力が活性化して居るからなのか、それは彼女に相応しい真紅の耀きを放ち、
 瞳も同じく強い輝きを湛える。
 周囲に活性化した炎の小さく精霊を従える様は、その名の示す通り炎の女神その物の姿。

 彼女の発生させる大量の熱量が上昇気流を発生させ、その長き髪の毛を優雅に揺らした。

「この周辺の土地神たちは、既に何モノかに倒されている」

 普段通り……。精神的に安定している時の彼女の基本的な口調。かなりぶっきらぼうで、少しぞんざいな口調ながらも、安心して背中を任せる事が出来る状態の彼女のままで、そう教えてくれる崇拝される者ブリギッド。
 但し、

「……土地神が倒されている」

 その危険な内容を反芻するかのように呟く俺。
 確かに、封じられるよりは倒される方が事態の深刻さは軽い。生かしたまま何処かに閉じ込めて置くよりも、陰陽の気に分解して散じさせて仕舞う方が、労力も、そして手間も一瞬で終わりますから。
 しかし、このハルケギニア世界で、そもそも、土地神……精霊の中でも、ある程度の能力を有した精霊たちを感知出来る人間は極々一握りの存在たち。おそらく、精霊魔法を行使すると言われているエルフたちの中にも、そう多くはいないでしょう。

 まして、その上位の精霊を倒す事が出来る系統魔法使いは皆無。
 何故ならば、上位の精霊が存在する空間で精霊を倒す為に魔法を行使するには、上位精霊よりも多くの下位精霊を支配しなければならないので…
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