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乱世の確率事象改変
暗雲は天を翳らせ
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悪い事なんか無い」
「あたしは同意するけどさ、秋兄は否定するんじゃないの?」
「あの人はいいの。それしか手段が無いなら選ぶ人だろうし、劉備の成長を待ってる事から分かるように誰かの在り方に口出しもしない。
 私達の元に来る事で壊れてしまってもいいの。私が欲しいだけだから。むしろ壊れて欲しい。そうなれば私だけのモノに出来る。人は壊れたら何かに依存するようになる。私と明みたいに」

 口を歪めて、夕は恍惚とした瞳を空に向けた。自身の嘗てを思い出して、親友の過去を思い出して。
 明は……もう抑えきれずに身体をくの字に曲げて笑い声を上げた。楽しそうに、嬉しそうに……優しい親友は自分の世界の平穏を願う異端者に堕ちたと、ある意味で人間として正しい姿になった気付いて。

「ひひ、ははは、あはははは! あー、おっかしい。ふふ、好きな人に壊れて欲しいなんて……夕は容赦ないねー。自分の為にしか動けないんだもん」
「それは明も一緒。依存してる私の為が自分の為だから、自分の存在を肯定する為だから。ふふ、私が皆を幸せにしてあげる。私が欲しい人のみだけど」

 彼女はにやりと傲慢な笑顔を向けた。
 自身の根幹にあるモノを指摘されて、なんでも見抜いてくれる親友の存在に明は安堵して、もしかしたら彼女の方が乱世の奸雄に相応しいのかもしれない、なんて考えながら明は笑いすぎて零れた涙を指先で払った。

「ま、とりあえず今出来る事をしよっか」
「ん、いつもありがと。じゃあ軍を纏めて一刻後に行動開始」
「御意だよー、あたしのお姫様」

 優しく夕の頭を撫でた明は悪戯っぽく舌を出してから背を向けて、軍の指示の為にいつも通りひょこひょこと歩いていく。
 その背を見つめる夕は満足気に信愛の籠る瞳を一寸だけ送り、ぽつりと小さく呟く。

「……秋兄も明みたいになったら、寂しくないでしょ? 他の人にだって依存していいんだよ。あなたに返せるモノは返して行きたい。あなたの事も幸せにしてみせる」

 明の幸せを取るために一人の人間の心を壊す事を決めていた。
 彼女は平等では無く、好きな誰かにだけ己が描く幸せを押し付ける。
 天幕の前を静かに歩く彼女は……自分もやはりどこか歪んでいるのだと考えながら、想い人の仕掛けてくれた楽しい策を自分達の為に利用しようと思考を傾けて行った。


 彼が仕掛けた策の全てが、この時点で既に成功しているとも知らずに。



 †



 夜半を過ぎた頃であった。
 人の蠢く異様な気配がして起き出す事は私にとって日常茶飯事。一人寝であっても、滾る情欲を落ち着かせた睦み事の後であろうと例外では無く、次いで城の様子が変わった為に身なりを整え始めていた。
 予想通り、慌ただしい足音が廊下に響き、急な何かがあったのだと知らせて
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