暗雲は天を翳らせ
[12/14]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
幾人かも疑問に思っているでしょうけれど……今は何も言わずに私を信じて欲しい。
信頼の籠った瞳を向けられて、霞は一つ目を瞑って喉を鳴らして想いを飲み下した。
短い期間ではあるが、彼女は華琳がどのような人物なのかを理解している。
主として信じ、己が神速を使ってくれと自分が示したというのに、月の事で怒りに染まった自分は部下として迎えてくれた華琳という新しい主をも侮辱した事になると気付いた。
「……関羽殿、非礼を行い申し訳ない。この借りは必ず返す。……また増やしてもうたけどな。
我が主には機会を与えて頂けた事に感謝を。この失態、必ずや神速を以って我が主の為に注ぎます」
愛紗に頭を下げ、すっと礼をとって霞は謁見の間を後にした。
しばしの沈黙。後に、凛とした声が室内に響いた。
「重ねて部下の非礼をわびさせて頂戴」
「いえ、構いません。我らが無理を言っている事に変わりはないのですから」
どちらもがぼかして言い合い、霞の件はこれで打ち切りとなった。
しかし、他の面々も愛紗も、ピリピリとさらに張りつめた空気に呑み込まれ始めていた。
「では交渉の話に戻ろう。関羽、この交渉……受けるつもりは無い」
茫然と、愛紗は華琳に目を向ける。その意味が理解出来ずに。先程兵を動かすと言ったではないか、袁紹軍の先鋒に張遼を向かわせると言ったではないか、と。
その様子を見て、にやりと意地の悪い笑みを浮かべた華琳は満足そうに目を伏せる。
「今は、というのを付け足しましょうか。劉備に直接会って再度交渉を行いましょう。交渉が成功する事を考えて、少しでも連携の軍議を行う時間を稼ぐ為に豫洲とのギリギリに陣を構えているのでしょう? 軍備が整い次第、そこに案内しなさい」
全く意図が分からず。しかし自分よりもその場にいるであろう朱里の方が交渉を上手く行える為、愛紗は頷く事しか出来ない。
口から零れそうになる感謝の言葉は寸前で抑え込む。まだ、何も解決していないのだと気を引き締めて。初めから受ける気は無かったが、張遼の失態からもう一度華琳自身で交渉を行う機会を設けてくれたのだと判断して。
愛紗は気付けなかった。これが偶発的なモノを利用した思考誘導である事に。
「我が臣に告ぐ。早急に軍備を整えよ。夜を徹しての行軍となる。先行する部隊は霞、凪、沙和、春蘭、桂花、稟で行く。風は城に残り、糧食と追加の兵を随時送ること。季衣は親衛隊と共に私の側にいなさい」
御意、の声と共に皆がその場から動き始める。
そしてその場には華琳と愛紗の二人だけとなった。
視線を向けられ、愛紗の身体は緊張に支配される。何か、得体のしれないモノに這いずられるような感覚を伴って。
「ふふ、個人的な話をしたいのだけれどいいかしら? ど
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ