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乱世の確率事象改変
暗雲は天を翳らせ
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ていない。同盟を結ぶというのなら、先に対価を示しなさい。公孫賛は……部下の関靖に判断を任せていたが、自身達で幽州を守りきって同盟が為されたあかつきには一個部隊分の名馬を送ると言った。公孫賛のように自分達だけで守れないと言うあなた達は何を私に差し出してくれるのかしら?」

 事前に行われていた交渉を開示する意味は逃げ場を塞ぐ事。それ以下は認めず、断る事も、最善の結果から妥協線まで落とす事もあると示している。
 愛紗は震えそうになる拳を無理やり抑え付けた。白蓮の姿、星の傷ついた姿を思い出して、華琳が助けていてくれたなら、二人は救われたのにという想いが溢れ出しそうになっていた。
 しかし……冷静に、己が主の為だけに彼女は心を固めている。だから激発する事は無く、場を誤る事も無い。

「……曹操殿には……徐州を明け渡します。益州は現在、劉家の家督争いにて民が疲弊しきっていると聞きます。悪官が跋扈し、過度な税によってその日の生活もままならない。その場所を、我らが止めに向かう許可を――」
「お前っ……ええ加減にせぇや! 言ってる事がどういう意味を持ってるか気付いとるんか!? またゆぇ……っ……繰り返すって事なんやぞ!?」

 堪らず。あらんばかりの怒気を溢れさせた霞は愛紗に向けて食って掛かった。武器があったならば、斬り殺さんと言わんばかりに。
 どうにか内容は隠したが、反董卓連合のように情報だけを頼りに敵を決めて攻め込まんとするその在り方を見ると、許せるはずが無かったのだ。
 愛紗はその憎悪の視線を受けて、一人の男の気持ちを、彼の覚悟を理解した。どれほど自分に足りなかったかも。
 理不尽を押し付けられた側が憎む事は当たり前、それを受けて尚、理想を叶える為に進む覚悟を持て。
 秋斗は二度も今のようなモノを向けられている。死に淵に於ける最大の怒りの怨嗟と、全てを奪った後のどん底の絶望の怨嗟。あまつさえ、怨嗟を向けられてもおかしくない相手を近くに置いているのだ。通常の人間ならば気が狂わない方がおかしいというのに。
 彼が命を投げ捨てるように戦う理由は、この覚悟ゆえであったのだと、本物の怨嗟を向けられた事によって、漸く真に理解出来た。

「霞、この場から出て行きなさい。交渉の場に個人の感情を持ち込むのは許さない。それに武人が恥を忍んで主の為に礼を貫き通したのだからあなたも私の為にそれを示せ。退出した後は部隊と糧食の準備に動くこと。袁紹軍との戦でも先鋒を命じる。罰は戦の後に執行するが、働き如何によっては考えよう」

 毅然と示され、霞は華琳の方を向き、無言で問いかけた。悲哀と激情の混ざる瞳は痛々しい。
 愛紗は華琳の言葉に目を見開いた。交渉がこんなにも呆気なく成功したと考えて。

――本当に劉備軍を助けるつもりなのかと言いたいのでしょうね。
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