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英雄王の再来
第4騎 トルティヤ平原迎撃戦(その1)
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第4騎 トルティヤ平原迎撃戦(その1)


アトゥス王国暦358年(アカイア王国暦320年)4月30日 昼
アンデル地方 トルティヤ平原
ミルディス州総督 テリール・シェルコット



 深淵の如く、暗く、重い霧が、平原に立ち込めていた。この時期、海から吹く風がロルウェル山脈に当たり、水を含んだ風がこの平原に停滞する。その風は夜に吹く事が多く、朝、日が昇る事で温度が上昇し、抱えきれなくなった水蒸気が霧となる。それ故に、この平原には、“迷いの平原”という別名があった。
 テリール・シェルコット総督率いるミルディス州軍4千は、その深い霧の中を南へ進軍していた。その構成は、歩兵3千、騎兵1千である。いつもの、アトゥス王国アンデル地方での小競り合いは、総督自ら指揮するものではない。しかし、今回ばかりは、自ら指揮せねばならなかっただろう。その理由は、ミルディス州軍の後ろ8ルサシェルグ(1ルサシェルグ=1km)にいるアカイア王国軍5万の大軍のせいである。その王国軍の陣中にて、総督は煮え湯を飲まされていいた。

「しかし、シェルコット総督。かの大国アトゥスは、風前の灯であろうに、攻略にいつまでかかっておられるのですか。」
鋭く、甲高い声で、そう“諌められた”。彼は、手に持つ鞭で、鞍を叩く。何かを割いたような音が響く。

「いえ、しかし・・・チェルバエニア皇国との兼ね合いも御座います。ミルディス州単独での攻略は・・」
私は、馬を並べて歩くその人に、そう答えようとした。しかし、それを全て答える前に、再び鞭の音が鳴り響く。

「それは、言い訳でしょう?」
気持ちの悪い。男のくせに、女のような口ぶりで話す。痩せた細見の身体、冷たい眼、黒い長髪。そして、女のように化粧をした顔が特徴的なこの人物は、アカイア王国南方方面軍第一等将軍バショーセル・トルディである。

「も、申し訳ございません。そのようなつもりは・・」
嫌な汗が背中を伝う。この男は、“悪趣味”と言われるような“趣味”を持つと噂されている。それは、打ち撥ねた首を、防腐剤を含ませた液体に漬け、それを鑑賞するというもの。正否は定かではない、しかし、この男の異様な雰囲気を目の当たりにすると、嫌でもその噂が頭を過るのだ。

「どうせ、ほどほどに出兵していれば、仕事をしているように本国には見える、そう思っているのでしょう?その腹のように、私腹を肥やしていたのではなくて?」
それは、思っていない訳ではない。この肥沃な大地にあるミルディス州は、領民どもから“税”として、多くの作物や製品を毟り取れる。シャルコットは、それで私腹を肥やしていたのは間違いない事であった。

「め、滅相も御座いません。誓ってそのような事は・・・」
バショーセルの眼が、厳しくなっていくのが分かる。その眼を見てい
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