災厄の道化
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ながら、忘れてなどいない。
だが、姉同様に軽やかなテノールボイスにドスが加わり、なんとなくぎこちない返事になってしまった。
まあそれでもクロスは満足なようで、嬉しそうにスプーンをカウンターへと置く。
「さあ、最初から語られる事を望むか?」
「は?」
「え?」
「クロス、何を・・・」
頬杖をついたまま、妖美に微笑む。
文字通り怪しく美しい笑みは姉譲り、といったところか。
見るもの全てを魅了し引き寄せるその姿とその意味不明な発言に、ギルドメンバーは首を傾げる。
クロスは右手を空気の渦へと突っ込み、別空間から何かを取り出した。
「最初から語られるか、最大の事件のみを語られるか―――――」
取り出したのは、トランプだった。
カードの束ではなく、スペードのエースの1枚だけ。
大きく黒いスペードが描かれたカードを、指先だけで器用にくるりと回転させ―――――
「お前達は、どちらを望む?」
スペードのエースが、落ちた。
そして、クロスの右人差し指と中指にはスペードのエースが挟まれていた。
エスト・イレイザーは、カトレーン宅を見つめていた。
その手に不思議な形をした杖を握りしめ、深紅の髪を風に揺らしながら、ただただ立っている。
「リーダー」
「・・・シェヴルか」
白銀の髪に空色の瞳の少女『シェヴル』に声を掛けられ、エストはゆっくりとした動作で振り返る。
鎖骨辺りには血塗れの欲望の紋章が瞳と同じ空色で刻まれていて、天使を思わせ、六魔将軍のエンジェルを彷彿とさせる白い羽と空色の布で構成されたようなワンピースから小さく覗いていた。
「アルカンジュ様と14年ぶりに再会したと聞きました・・・アルカンジュ様は、元気そうでしたか?」
「・・・ああ、元気だったよ。私を憎むほどに・・・ね」
どこか寂しそうに呟くエストを、シェヴルは悲しそうに見つめていた。
「ティア嬢は本宅におられ、妖精達が追ってくるだろうとマスターは考えておいでです・・・リーダーも、戦うようにと」
「はは・・・シグリットの命令なら仕方ないね」
乾いた笑い声を零し、エストは杖を背負う。
ゆっくりと目を閉じ――――――開く。
「運命は神以外に変える事は出来ない・・・戦う以外の、道はない」
ナツ達は、目を見開いていた。
その目は“床へ落ちたスペードのエース”を追い、“クロスの右人差し指と中指に挟まれるスペードのエース”を見ている。
「え・・・え?」
「同じカードが、2枚?」
「隠し持ってたのかーっ!?」
「何でそんなに嬉し
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