第百五十八話 義昭の愚痴その七
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「このことはな」
「ですな、ですから」
「このことはです」
「あ奴は絶対に逃れることは出来ませぬ」
「我等の血の絆は」
「これだけは」
「奴は絶対に我等から離れることは出来ぬ」
老人の声は言い切ってさえみせた、ここで。
「何があろうともな」
「だからですな」
「あの者は織田信長を滅ぼす力であります」
「この世を滅ぼす」
「そうした力ですな」
「そうじゃ」
その通りだとだ、また言う老人の声だった。
「そのことはな」
「では何故」
「あの者は織田家にいるままでしょうか」
「我等とも戦うことにもなっていますし」
「訳がわかりませぬ」
「どうしても」
周りは次々に言う。
「しかし血の絆があります」
「これには誰も逆らえませぬ」
「我等ならば」
「まつろわぬ者達ならば」
「逆らえぬからな」
それでだというのだ。
「このことは気になるのだが」
「安心もされていますか」
「あ奴のことは」
「うむ、何時か動くわ」
それは必ずだというのだ。
「そして動けばな」
「その時にですな」
「我等も」
「動く」
まさにというのだ。
「同時にな」
「その時にですか」
「織田信長を仕留めますか」
「松永が動いた時に」
「まさにその時に」
「考えてみれば蠍は常に針を使わぬ」
その毒針をだというのだ。
「決してな」
「ここぞという時にですね」
「その時に使いますね」
「そうじゃ。ここぞという時にな」
松永の通り名が蠍ということから来る話であることは言うまでもない。
「使うものじゃからな」
「今は、ですな」
「針を使いませんな」
「ここぞという時に」
「そうするからこそ」
「今はじゃ」
休んでいるのだろうというのだ、松永は。
「あ奴が動く時を待つとしよう」
「ではあ奴に任せるのですか」
「ここは」
「そうするとしよう。今のところはな」
様子見をするというのだ。
そうした話をしてだ、そして老人の声は周りに告げた。
「ではじゃ」
「はい、今より」
「今よりですな」
「摂津に向かう」
今度の戦の場であるそこにだというのだ。
「そして織田の軍勢をうんと疲れさせるぞ」
「ではその様に」
「我等も」
周りも応えそうしてだった。
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