第五話 二人目の持ち主その九
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だが怪人には当たらない、しかし。
その炎の明かりでだ、見えたのだった。
「やっぱりね」
「何!?」
「あんたの姿は確かに見えないよ」
このことはもう言うまでもない、実際に今も怪人の姿は見えない。
だが、だ。それでもだというのだ。
「けれどね」
「それでもか」
「あんたの影はどうかね」
言うのはこのことだった。
「それは」
「影か」
「そうさ、今の炎であんたの影が見えたんだよ」
「まさかと思うが」
「今ので確信したよ、幾ら姿を消しても影は消せないんだよ」
こう言ってだ、ここで。
薊は棒を己の前で水車の様に回転させた、実に激しい回転だ。
その炎の明かりで見るとだ、影があった。
姿は見えない、だが今も。
はっきりと見える、それでその影に対して。
棒を回転させて生じさせていたその炎を棒から飛ばした、それで影にぶつけた。
その速さと勢いは怪人とてかわせるものではなかった、その直撃を受けて。
怪人は姿を現すと共に全身を焼かれた、その炎に包まれる中で。
彼はだ、こう言ったのだった。
「考えたな」
「常識だからな」
炎を飛ばした後でだ、薊はにやりと笑って言うのだった。
「光は影を生み出すんだよ」
「確かにな、俺は姿を消しているだけだった」
「影は消せないよな」
「そうしたことは出来ない」
「だよな、だからだよ」
「咄嗟に思いついたのだな」
「ああ、そうだよ」
まさに閃きの結果だったというのだ、今のことは。
「俺にしてもな」
「頭はいいのだな」
「いやいや、学校の成績はさ」
このことは笑って言う薊だった。
「よくないよ」
「頭のよさは知識とは違う」
学校の勉強は知識が大半だ、後は応用であるが結局覚えることなのだ。怪人はそのことがわかっているのかこう言うのだった。
「貴様は頭の回転がいい」
「褒めてくれるんだね」
「事実を言ったまでだ、よくわかった」
「咄嗟にだけれどね」
「その咄嗟の閃きが大きいのだ」
怪人はそこに薊の頭のよさを見ているのだ、既に満身創痍で今にも倒れそうだが薊に対してこう言うのだ。
「生きるか死ぬかはな」
「それであたしはその閃があるからあんたに勝てた」
「その通りだ」
「それが全部事実なんだね」
「そういうことになる、ではだ」
怪人は口から血を吐いた、それは人間のものと同じ赤い血だ。その血を吐いてそうしてから片膝をついて薊に言った。
「ではな」
「ああ、消えるんだね」
「貴様の健闘は讃えよう。ではな」
「さよならだな」
薊は怪人に告げた、そして。
怪人は灰にはり消えた、その灰は風により吹き散り後には何も残っていなかった。何もかもが消えてからだった。
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