オーバーロード編
第30話 “想い人”
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その日はたまたま外食で、咲は両親と一緒にショッピングモールに出かけていて。
たまたまその時に、湾に突き出した展望デッキで、舞が紘汰と抱き合っていた。
(紘汰くんだってオトナの男の人なんだから、オトナの女の子の舞さんとそうなってるのは全然ヘンじゃないのに)
どうして室井咲は立ち尽くし、まばたきもできないほどのショックに襲われているのだろう?
ネオンのきらめきが紘汰と舞を照らし出しているせいで、彼らが寄り添う姿は咲からもはっきりと視えた。
(あたしが紘汰くんを好きだから? でも、このスキはそういうスキじゃないって、あたしがイチバン知ってる。ちがう。そういうスキじゃ――ないん、だから)
唐突に咲は別のことに気づいた。
咲では、紘汰と共に戦うことはできても、紘汰を癒してやることはできない。それは硝煙や血のにおいに無縁な、例えばヘキサや舞のような人々でなければ無理なのだ。
葛葉紘汰に安らぎの時間を与えてやれない。
これはそのことに対するショックなのだ――咲は自身にそう言い聞かせた。
先に行っていた両親が咲を呼ぶ。咲は返事をし、紘汰と舞から視線を断ち切って走った。
その胸に空いた答えという穴を、受け入れて。
「地球が滅ぶ?」
チャッキーが正面に座る舞の言葉をオウム返しした。
「信じられないと思うけど、本当のことなの。ユグドラシルはそれを知ってて隠してるの」
この時、光実の臓腑がどれだけ冷め渡ったか知る者は、光実自身と、隣に座る妹の碧沙以外にはおるまい。
「おいミッチ、ヘキサ。お前らも知ってたのか」
ザックの声は険しい。責めているようにも捉えられる。否、実際に彼は責めているのだろう。黙っていた、という不義理を。意外だが、彼はこういう水臭いことを嫌う。
「はい……紘汰さんから。今まで言い出せずにいました。……すみません」
ちっとも心のこもらない謝罪をポーズとしてしておく。光実の内心は、舞を巻き込んだ紘汰に対する怒りで冷え渡っていた。
「わたしはつい最近、兄さんから。どう伝えても、パニックになるし、わたしたちにはどうにもできないから――」
「どうにもできなくなんかないよ!」
舞がイスを立った。
「このことを街のみんなに伝えるくらいなら、あたしたちでもできる」
「そうだな。――よし! そうと決まれば準備するぞ」
舞とザックの言葉で、チャッキーもペコも肯き、立ち上がった。彼女らは準備のためにガレージを出て行った。
その中で二人、光実とヘキサだけは、ガレージに留まった。
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