第一章
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一体何でしょうか」
狐達は彼に問う。
「宜しければ教えて下さいませ」
「それを」
「そなた等はどうして私の下に参ったか」
彼は次にそれを問うた。
「それを教えてくれぬか」
「何故でございますか」
「そうだ。どしてか」
「貴方様に惹かれたのは二つの訳があります」
「二つか」
「はい、まずはそのお美しさと」
業平はこの世のものとは思われぬ美貌を持っていた。一見して美女と見間違うばかりの。だからこそそちらでも後世まで名が残ったのである。その美貌には狐達ですら魅せられたのだ。
「そしてもう一つは」
狐達はそれも述べる。
「歌です」
「やはりそれか」
業平はそれを聞いて心の中で頷いた。
「そうだと思った」
そのうえで狐達を見て言う。
「私の歌もまた望みなのだな」
「はい」
「ですからここに」
「では考えがある」
業平はそれを聞いたうえで狐達に対してさらに言う。
「まず私自身だが」
「はい」
「今この川に私の姿が映っている」
川の水が鏡になっていた。そこには業平と狐達の姿が映っている。彼はそれを指差したのである。確かにそこには彼の姿がある。
「これをそなた等の術でまず留めてくれ」
「そしてそれを」
「そうだ、絵にしてそなた等のものとする。それでどうか」
「成程」
「それでしたら」
狐達はそれを受けて大きく頷いた。
「この水鏡を」
「貰い受けて宜しいですね」
「別に魂は取られぬな」
「ええ」
「鏡に映るのは仮初の姿でございますから」
狐達は言う。
「それは御安心下さい」
「では」
水に向けて念を放った。すると業平の映った水面だけが剥がれ、それが鏡の様になり見る見るうちに小さくなっていく。そして遂には狐達の中の一匹の掌に収まったのであった。
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