第九章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第九章
「ボロ負け続きやで」
「こっちはそれ程でもないかもな」
芳香は彼女の言葉を聞いてふと振り返った。振り返ってみると阪神程酷い有様ではないのかも知れないと思った。少なくともあのお家騒動はなかった。阪神名物はお家騒動だった。それはこの時代とりわけ酷かった。何かあるとすぐに選手や上層部、ふろんとが衝突を繰り返す有様だったのだ。
「まだ」
「それはええことや」
静江は芳香の話を聞いて言う。
「うちの亭主もうそれでうんざりしてるところもあるから」
「まあそやろね」
「それでも応援は続けてるけど」
かといって止めるようなら最初からファンにはなってはいない。阪神ファンとはそうした人種である。それもこの時代からなのである。
「そうなん、やっぱりね」
「そやけど。そっちも大変やね」
「なるようにしかならんけどね」
「そうやね、結局は」
結論はこれであった。なるようにしかならないのだ。芳香はそれがよくわかっていた。何処か達観もしていたのである。それを実際に言ったのだった。
「ゆっくり待つわ」
「南海が優勝することやね」
「凄いエースが来てな」
にこりと笑って言う。
「何か西鉄に凄い人おるらしいけど。ええと」
「稲生和久やろ」
静江はにこりと笑ってその名前を出してきた。
「西鉄いうたら」
「そう、その人」
芳香はその名前を聞いて言ってきた。
「その人に随分やられてるらしいから、南海」
「うちの旦那も言うてたで」
静江は笑って言ってきた。
「阪神にあんなピッチャーいればなあって」
阪神ファン名物のぼやきもこの時代から健在であった。そう言っては溜息をつくのだ。ただし巨人の選手相手には敵意を剥き出しにする。この時代では川上や千葉、別所がその対象だった。後にそれが王や長嶋になっていくのだ。あるタレントは子供時代あまりに長嶋に打たれて負けるので彼を殴ってやろうと球場の隅で待ち構えていたがそのオーラに圧倒されて動けなかったという。
「いつもな」
「こっちは切実やね」
稲尾はパリーグである。この差がまた出ていた。
「南海に来るのを待つだけやけれどね」
「来るやろかね」
「運がよかったら。それか鶴岡さんが見つけてきたらや」
康友に対して語ったのといささか被っていた。
「どうなるか」
「まあこっちも同じや。もう一人小山が来つかもて言うてるよ」
当時の阪神のエースである。その抜群のコントロールで知られ精密機械という仇名を持っていた。押しも押されぬ大エースである。
「そういうことやさかい」
「気長にいこか」
これで彼女達の話は終わった。実はこの時鶴岡は大物を狙っていた。その大物こそがあの杉浦忠なのであった。
杉浦が南海に入る、それを聞いた康友はかなりはしゃいでいた。
「凄い
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ