第九章
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かも知れんで」
新聞を読みながら芳香に語る。朝からこの調子であった。
「杉浦や、杉浦が南海に来るんや」
「そんなに凄いん?その人」
「凄い」
彼は断言してきた。
「立教大学のエースやで。巨人に行った長嶋と並ぶスターや」
「へえ」
「その杉浦が入った。これはでかい」
得意面々で語る。
「優勝するかもな」
「ほなこれで一安心やね」
「いや、わからへん」
だが彼はこう言って首を横に振ってきた。
「まだな」
「わからへんのん」
「そや。確かに人も揃ってる」
当時の南海は所謂四〇〇フィート打線だ。頭角を表わしてきた野村克也を中心に攻守が揃っていた。だがそれでもわからないと言うのである。
「西鉄は強い」
そのことが骨身に滲みていたのだ。
「杉浦が本物やっったらいけるやろけど」
「けど今喜んでるやん」
「それはな」
それ自体は認めた。
「そうやけどそれだけやないから」
「安心はせんわけやね」
「それでも。優勝したら」
「どないするん?」
「御堂筋や」
また御堂筋を出してきた。
「そこ行くで。ええな」
「お酒も用意してやね」
「わかってるやないか」
芳香のその言葉に笑顔になった。
「そういうことや。それでええな」
「わかったで。その時はね」
「さて、どうなるかな」
これからのことに想いを馳せてきた。
「南海も杉浦もな」
何だかんだで楽しみにしていた。実際に杉浦は入団したその年から活躍した。いきなり二七勝をあげ新人王になった。しかし南海は優勝できなかった。
この年のシリーズは伝説となっている。三連敗の後の四連勝、西鉄は稲尾の恐るべき力投で日本一になった。まさに鉄腕であった。
「凄いわ」
これには康友も言葉がなかった。
「稲尾は凄いと思ってたけどここまでとは思わんかった」
「街でもこの人の話ばかりやで」
芳香は家に帰ってラジオで話を聞く康友に対して言った。
「稲尾稲尾でな」
「当然やろ。こんなのできへんわ」
唸っていた。
「最高のピッチャーやな。杉浦も凄いけれど」
「それ以上って言いたいんやな」
「そや。これは有り得へん」
こうまで言う。
「最強のエースここに在りやな」
「けれどあんた」
唸る康友に対してそっと言ってきた。
「何や?」
「世の中上には上がおるで」
実はこの言葉には真意があった。
「そやから」
「杉浦が上いくってことか?」
「そうかも知れんやん」
「そやったらええけどな」
あまり期待はしていない顔であった。
「けど稲尾以上は。やっぱり」
「期待はできるやろ?」
それすらもない彼に対して言うのだった。
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