第七章
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相撲とな。この二つだけは」
「注意して、やな」
「そういうことや。それじゃあんじょう」
「何か色々あるね」
コーヒーカップを持ってから言う。
「男の人も」
「芳香ちゃんわかってると思うけどな」
静江はにこりと笑ってそう返してきた。
「うちより」
「いや、今度は私が教えてもらったで」
彼女は笑って言った。
「野球のことは詳しいないから」
「相撲はどうなん?」
「そこそこやね」
こう答えた。
「うちの人は相撲は見る位やし」
「他には空手とか柔道もあるけど」
「そっちは全然」
笑って左手を横に振った。
「興味ないみたい」
「最近柔道で面白い漫画があるらしいけれどな」
「子供が読んどるあれ?」
ふとそれを口にした。何処か軽く見ているのはこの時代漫画の評判がよくなかったからだ。少なくとも親達にとってはそうでそれが芳香にも出ていた。
ここもまた面白い。これより少し前は学生ではあるが哲学書を読むべきであり小説を読むのはけしからんとされていた。しかしこの時代は漫画がけしからんとされていたのだ。子供はもっといい本を読めと。だから手塚治虫もそうした批判というか的外れな中傷に苦労していたりする。
「そうやねん。うちの子供も読んでるみたいや」
「漫画っていうと手塚治虫?」
実際に彼は非常に名前を知られていた。戦後の、日本の漫画を形づけた異才はこの時は子供達にとっては神様のような存在で親達にとっては悪の権化であった。
「それとも赤胴鈴之助?」
「いや、それともちゃうねん」
「じゃあ何やろ」
「イガグリくんって漫画らしいわ」
柔道漫画の古典である。今となっては何もかもが懐かしい漫画だ。
「イガグリくん」
「何かうちの子それ見て柔道やりたいって言うてるねん」
「ええんちゃう?」
それは別に悪いとは思わなかった。
「つよなるし。躾にもなるし」
「じゃあやらせてみよか」
静江は考えながら述べた。
「柔道」
「そやね。うちの子も何かやらせてみよか」
「野球なんてどやろ」
その野球を出してきた。
「実際にやると遊びとはまたちゃうらしいし」
「そうなん」
「スポーツは身体にもええし。やらせたらええわ」
「そやね、野球も躾にええし」
この時代はそうしたことが重く見られていた時代だった。まだそういうものが残っていたと言うべきであろうか。大阪の下町でもそれは同じだったのだ。
「そやったらやらせてみよか」
「うん、そうするべきやで」
静江はそう勧める。
「あと勉強もや」
「それなあ」
芳香はそれには少し首を傾げさせてきた。
「うちの子等は勉強でけるし」
「心配いらんってこと?」
「うん、そう思うんや」
そちらの心配はしていなかった。その分だけ気が楽ではあった。
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