第五章
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男だったのだ。
「わからんなあ。ホンマに」
「だからそれが勝負やって」
芳香はまた彼に声をかける。
「気を落としたらあかんで。それにや」
「それに?」
ここで女房に顔を向けてきた。
「一番落ち込んでるのはあんたやないで」
「わしやないか」
「そうやない」
笑顔を作ってこう声をかける。
「選手に決まってるやん」
こう言うのだ。
「それと監督さんな。負けて一番辛くて悔しいのは」
「そうか」
「そうや。そやから」
また声をかける。
「気を落としたらあかんで。ええな」
「ああわかった」
そこまで言われて遂に頷いた。
「そやな。そやったら」
「気を取り直してな。飲んだらええわ」
「ああ、わかった」
まだ項垂れていたがそれでも頷いた。
「そやったら」
「そうそう。じゃあ家に帰るで」
「家にか」
芳香のその言葉に顔を向けてきた。
「だからとびきりの酒買ってるって言うたやん。それで」
「買うてくれてたんか」
「勝っても負けてもな。必要やと思って」
そう答えてきた。
「それでや」
「悪いな」
女房のその言葉を聞いてほろりとしかけた。しかし女房の前だったのでそれは止めた。この時代はまだそうした男の意地というものが少しではあるが残っていたのだ。
「ほな。帰ろか」
「ベーコンもたっぷり買ってるさかいな」
「済まんな。じゃあ今日は飲むわ」
「せいらい飲んだらええわ」
また夫に対して言う。
「今日はな」
「わかったで。そやったら」
「うん」
夫の背を支えるようにして御堂筋を後にする。彼は何とか女房の支えで持ち堪えた。その日はかなり深酒だったがそれでもその日だけで終わった。それも芳香のおかげであった。
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