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幸せな夫婦
第三章
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「何かあったん、あんた」
「何かあるから言うんや」
 ふてくされて一人勝手にビールの栓を開けていた。
「ちょっとやるで」
「ええ」
「全く。ソ連がええとか北朝鮮がええとか」
 その開けたビールを腹の中に入れながら愚痴を言いはじめた。
「何をどうやったらそんなアホなことが言えるんや。あいつ等は獣や」
 半ば罵倒していた。
「ゴロツキか犯罪者の集団みたいなもんや。そんな奴等を何で褒めるんかわからん」
 実は彼は戦争では満州にいたのだ。彼は何とか逃げ帰ることができたのだがそこでソ連軍と戦いその暴虐な有様も見ていた。だからソ連がとことんまで嫌いだったのだ。
「それでわし達が遅れているか。ふざけるのもいい加減にせんかい」
「世の中おかしなことを言う人もおるんやね」
「戦争が終わってから急に増えた」
 彼はこう言う。
「変な世の中になったわ。子供達には間違ってもな」
 苦々しげにビールが入ったコップを持ちながら述べる。
「あんな奴等を仰ぎ見るようにはしたくないもんや」
「真っ当にってことやね」
「そや」
 それが彼の信念だった。
「ソ連とかあんな奴等よりも自分を信じればいいええんや。そうやないかい?」
「そうよね、やっぱり」
 鍋の中の鰯を箸でさばいて味噌汁の様子を見ながら言う。大根の味噌汁であった。
「まともにしないとね」
「まともなのが一番や」 
 話しているうちに不快の虫が収まってきていた。次第にその関心を夕食に向けてきていた。
「それで味噌汁はあれか」
「ええ。大根の葉っぱやで」
「やっぱり意外とええな」
 康友は言う。
「最初は何やと思ったけれどな」
「意外とええやろ」
 夫の言葉ににこりと返す。
「大根の葉っぱも」
「そうやな。食べとると美味いもんや」
 康友もにこりと笑う。笑いながらまたビールを飲む。
「意外やったな。こんなの何処で見つけてきたんや?」
「思いつきやで」
「そうなんか」
「そやで。けれど意外とええやろ」
 にこりと笑って夫に言う。もう料理はかなりできてきていた。
「大根も」
「そうやな。それであれもしてくれや」
「鯨やね」
「ああ、ええよな」
 この時代は鯨はごく普通の食べ物だった。醤油や生姜と一緒に煮たりしてよく食べられた。かつては日本人の主要なタンパク源であったのだ。
「鯨のコロと菜っ葉でな」
 所謂ハリハリ鍋だ。この頃は安く普通の食べ物であった。大阪では有り触れた食べ物だったのだ。鯨がそうであったからこれは当然である。
「またやってくれや」
「子供達があまり好きやないけれどね」
 それが芳香には少し不満だった。
「鯨のコロも」
「あんな美味いものないのにな」
 康友は首を傾げて言う。

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