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打球は快音響かせて
高校2年
第十六話 ボロ雑巾
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夏にはベンチ入ろう思って、あと少しまで来よったのに…今日で全部パァや!お前にも、よう練習付き合うてもらったのにな…」
「それはお互い様だったよ。俺も太田に受けてもらったんだし。」

翼にとってそれは実感だった。
太田が何度も何度も投げ込みに付き合ってくれなかったとしたら、B戦ですらマトモに投げられなかっただろう。

「ま、先輩らが居る中でここまでベンチ入り争えたんなら、俺たちの代ではレギュラーも見えてくるよ。無駄にならないって、太田の努力は…」
「違うんや!そげな事やないんや!」

空になった缶を太田はゴミ箱に放り投げた。
ドンピシャで缶は箱の中に収まり、カコン、と間抜けな音を立てた。
太田の剣幕に、翼は口を噤む。
両者の間に気まずい沈黙が続いた。

「…すまんな、好村。気を遣わしてもたな。明日から俺もランナーやるけ。コーラありがとな。」

不意に立ち上がった太田は翼に向かって無理矢理とってつけたような笑顔を見せて、寮の中に戻っていった。ベンチには、翼だけが残された。

「お前、よくあんな地雷踏みに行けるな。俺なら無理だ。放っておくね。」

そこへ物陰から姿を現したのは宮園。
実に呆れた顔で、翼を見下ろしていた。

「……一緒に練習して、頑張ってきた仲間を放ってはおけないよ」
「ふぅん、それでメンバー外同士で傷を舐め合おうとした訳ね。そりゃ太田も良い気持ちしないだろうな。」
「…………」

翼は黙るしか無い。
何と無く、宮園が言いたい事も分かる。
早々とメンバー外が確定した自分に慰められても、余計にイライラするだけだったかもしれない。

「お前には太田の気持ちなんて分からないよ。お前と違って、あいつはギリギリで落ちたんだからな。俺たちの代ではレギュラーだって?馬鹿だなぁ。そんな先を見てあいつは努力した訳じゃないし、先を見てないからこそ大して上手くもないのにここまで粘れたんだ。俺たちの代なんて見据えてたら、とっくの昔に、一つ上の先輩にこの夏を譲ってるよ」
「…………」

言われれば言われるほど、宮園の言葉が翼の胸に刺さる。自分の浅はかさが、宮園の言葉で浮き彫りになっていく。忸怩たる思いでそれを聞くしかない。

「まぁお前も頑張れよ。“俺たちの代のベンチ入り”を目指してな。」

宮園は翼に背を向ける。
カツカツと、宮園が階段を登って寮に戻る靴音を聞きながら、翼はどうしようもなく惨めな気持ちになった。

泣きたかった。さっきまで自分が、泣いている太田を慰めていたのに。



ーーーーーーーーーーーーー



「ああ…」
「うわぁー」

夏の大会の組み合わせ抽選の結果が出た。
ベンチの壁に貼り出されたそのヤグラを見て、三龍ナインは頭を抱えた。

3回戦の相手
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