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打球は快音響かせて
高校2年
第十六話 ボロ雑巾
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第十六話



梅雨の時期に入ってくると、もう殆どベンチ入りメンバーは絞られる。そして練習も、ベンチ入りを最低限「争う」メンバーが中心になる。中心になるというか、それ以外の選手は練習から閉めだされる事が増えるのだ。

「うぉーっ!」
「もう一丁こいもう一丁!」

梅雨は雨が増えるが、本当にグランドが使えないレベルの雨でない場合は練習は外でやる。
雨の日の練習は暑い晴れの日の練習よりもさらにダルい。グチャグチャの地面に足をとられ、スパイクと足が濡れて気持ちが悪い。ユニフォームがどんどん水を吸って重くなっていく。そもそも野球は雨の日にするものではない。

「おらぁーっ!来いやーっ!」

ランナー付きのシートノックで、外野から太田が声を枯らす。4月以降、ギリギリAチームに選ばれていた立場から代打を中心に地道に結果を出して、2年生ながらこのベンチ入りメンバー争いの最終局面に残っていた。

キン!

選手と同じようにびしょ濡れになっているノッカーの乙黒が打った打球が、太田の正面に転がってくる。二塁ランナー役の翼の足はまずまず。
三塁を蹴ってホームに突進する。

(殺す!)

その様子が目に入った太田は、バックホームの為に前進しながらゴロをグラブですくい上げようとする。
しかし、この日のびしょ濡れのグランドでは、ボールは思いのほか跳ねなかった。

「!!」
「何しとんやワリャァー!」
「何べん同じ事するんならー!」

グラブの下を打球はすり抜け、綺麗にゴロを後ろに逸らしてしまった。先輩や同期から罵声が飛び、太田は顔が真っ青になる。この日のシートノックでは、何度もこのような失態を演じていた。

「太田ァー!お前もうええわ!」

乙黒が叫びながら、ノックバットで指差した先には、ベンチで濡れたボールを拭いている京子。
その手にヘルメットを持ち、高く掲げていた。
ランナーをやれという事らしい。

「……」

太田は俯き加減に、ポジションから去って行った。



ーーーーーーーーーーーーー




「……」
「なぁ、もう泣くなよ。高校野球が終わった訳じゃないじゃんか。」

寮に帰ってから、太田は悔し涙を流していた。
1人寮の前のベンチで泣いている太田に、自販機でジュースを買ってきた翼が声をかける。
太田は翼をジロリと見る。

「…俺、炭酸飲まんのやけど」
「え、そ、そうだっけ?」

神経を逆撫でしてしまったか、とたじろぐ翼の手から太田はひったくるようにしてコカコーラを受け取り、グイッと一飲みした。

「あー、美味いわ!一年近く飲んでなかったけんな!体に良くないと思って!」

勢い良く飲み過ぎて、途中でゲップもしながら太田はコーラを飲み干していく。


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