第十一章
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「御前とずっといたいってな」
そのにこりとした笑みで語る。しかし前を向いたままなのはどうにも照れ臭いからであろうか。
「わしには過ぎた女房やからな」
「ちょっと、そんなん言うたら」
今度は芳香が照れ臭くなる番だった。道で顔を赤くさせていた。
「恥ずかしいやん、ちょっと」
「わしかて恥ずかしいわ」
「それでもな」
「そうなん」
「御前のことも願うで」
その気持ちは固まっていた。
「それでええな」
「じゃあうちも」
芳香もそうするつもりになっていた。夫婦一緒であった。
「一緒にお願いするわ。恥ずかしいけど」
「ああ」
康友はその言葉に頷く。二人は笑顔で住吉までの道を歩いていたのであった。二人のささやかな、久し振りのデートであった。
願掛けから一年後、驚くべきことになった。
「勝ったわ」
ラジオから胴上げの声が聞こえてくる。後楽園で勝利を収め今南海ナインが勝利に沸き返っていたのだ。
杉浦の四連投四連勝の結果だった。昨年の稲尾のそれを思わせる偉業だった。今その彼が高らかに空を舞っていた。全ては杉浦の力によるものだった。
「これでうちの人も」
康友の喜ぶ顔が見える。そして。
「御堂筋やな」
デートの約束を思い出す。それが彼女にとって大きな力になった。
いい女房になるのは何故か。それは夫への気持ちだった。それを持っている彼女は確かに過ぎた女房であったしそれを向けられている康友は幸せであった。幸せな夫婦の話であった。
幸せな夫婦 完
2007・4・1
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