第十章
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第十章
「それでも」
「じゃあ来年期待してみようか」
その言葉に乗った。いや、芳香が乗せたのであった。これは計算してのことだった。
「それもそやな。期待するのはできる」
「そうそう」
にこりと笑って夫に対して述べる。
「そやで。それでもあかんかったら」
「運がないと思って諦めるだけやな」
「何やったらお参り行って来たらどうなん?」
「お参り?」
「住吉さんでも」
住吉神社のことである。関西で最大の神社であり毎年新年にはお参りでごったがえす。大阪人にとっては大阪城と並ぶ誇りである。
「願かけに」
「あそこ勝負事やったかな」
「どうでもええやん。神様は同じやで」
かなり強引だがそれでも芳香は言った。
「行かんより行く方がええし」
「そやな。じゃあ日曜にでも行くわ」
「一緒にどや?」
またくすりと笑って声をかける。
「久し振りに二人で」
「アホ言うな。デートする歳かい」
康友は芳香のその言葉に笑った。だが悪い笑いではなかった。その証拠に彼はすぐにこう言ってきたからだ。
「けれど。ええかもな」
「たまにはな」
芳香も言ってきた。
「ええやろ。そやから」
「わかったわ。じゃあ日曜な」
康友も何処か照れ臭かった。この時代はまだ硬派という言葉が強く残っていた。それが少しずつなくなっていっているのも感じられていたが。
「行くで」
「うん」
こうして二人は日曜に住吉大社にお参りした。天下茶屋からは近いので歩いていった。実際に歩いて行けない距離ではないのだ。自転車だともっと速いがこの時代自転車は高く家に一つといったところだった。
並んで西成から住吉の道を歩く。康友はその中で芳香に声をかけてきた。
「なあ」
「何なん?」
「こうして二人歩くのってあれやな」
彼は道をてくてく歩きながら彼女に声をかけてきたのだ。秋の空気が少し肌寒かった。
「結婚する前以来やな」
「結婚して暫くはこうして歩いてたやん」
「そやったか」
言われても今一つ記憶にない。
「覚えてないわ」
「そうやで。大阪球場かて歩いて行ったやん」
「歩いて行けん距離やないからな」
天下茶屋から歩いて暫くして大阪球場のある難波だ。意外と身近にあるものなのだ。
「そやから」
「電車よりこっちの方がええねん」
芳香は楽しそうな顔で康友に言ってきた。
「何でや?」
「またとぼけて」
ここで夫の肘を自分の肘でコツンとしてきた。
「決まってるやろ。あんたと一緒やからや」
「おいおい、またそんな子供みたいなこと言うて」
その言葉を聞いてかなり恥ずかしくなった。
「どないしたんや、ホンマに」
「あのな、あんたやからや」
今度は夫にこう述べてきた。
「あんたやから」
「一緒におるんか?
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