第3騎 御旗のもとに
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を伝うのが分かる。不快だ。その汗のせいで、夜風がより、冷たく感じる。私は、努めて平静を装うとしているが、自分でどんな表情をしているのか分からない。
「・・・時々ね、君は、あの“英雄王”の生まれ変わりなんじゃないか、そう思う時がある。書物や人が言う伝説でしか知らないけど、13歳の君に、その影を見てしまう。」
彼は、振り返って、こちらを見ている。その眼は、私が居る方向を見ているが、私を見てはいない。何を見ているのか。
「・・ごめんね。変な事を言って。ただ、“英雄王”は、今のアトゥスを見て、どう思うだろうと思ってさ。」
真面目で、神妙な顔付きから、笑顔へと急に変わった。“英雄王”は、今のアトゥスを見て、自分の非力さ、無念さで、心が一杯になりますよ。きっと。
「兄上・・・」
「“英雄王”が、この時代に生まれ変わってくれないかなって、思ってしまうんだ。この混迷の時代に。身勝手だけど、思い上がりだけど。・・・そうであれば、彼女も死ななくて良かった。」
彼は、首に下げているペンダントを握りしめている。兄の、ノイエルンの想い人は、戦争で亡くなった。3年前まで、アトゥスの領土だった所・・・この街の北西にあるカーラーン地方の街、メルフィスールに住んでいた。その街は、チェルバエニア皇国の軍に攻撃され、占領された。その被害は大きく、男は一人残らず殺され、女は姦しられ、子供は売る為に縛られた、そう聞いている。
少しばかりの間、彼は黙ったまま、眼を伏せていた。私は、何も言わず、彼が話し出すのを待った。
「・・・・いや、本当にごめん。もう大丈夫。何だか、エルの前だと、つい話しちゃうなぁ、私の方が兄なのに。」
「気にしないでください。私で良ければ、お話、いつでもお聞きします。」
「ありがとう。さ、長居してしまった。そろそろ、自室に戻るよ。エル、初陣頑張ってね。」
彼は、そう言いながら出口に向かって行く。私も、それに付いて行きながら、答えた。
「兄上も、出陣でしょう?お気をつけて。」
「ありがとう。では、おやすみ。」
そう言って、彼は自室へと帰って行った。その背中は、悲しみや悔しさ、色々な感情を抱えていた。
自室に戻ると、私は寝衣に着替える事にした。部屋にある等身代の鏡の前に立つ。そこには、墨を零したように黒い短髪、よく端正なと言われる顔、程よく引き締まった筋肉が写る。これは、エル・シュトラディール。しかし、その外見は、ルシウス・エルカデュールとそっくりなのだ。ルシウスが13歳だった頃に。父や二人の兄は、淡い銀髪であるのに、私だけが黒色なのだ。これは、何を意味するのであろうか。
着替え終わり、ふと、机にあった黒い色の布を巻いた細長いモノが目に入った。それをベットまで持って行って、ゆっくりとその上に広げる。黒い布が、真
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