第3騎 御旗のもとに
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一の希望を意味する。何にも染まらず、希望として戦い続けると。
「ありがとう・・・」
私は、頭を垂れるその赤色の甲冑の彼に、静かにそう、伝えた。苦しい時も、辛い時も、いつも色々な人に救われてきたように思う。
アトゥス王国暦358年4月21日 夜
アンデル地方 シャフラス アイナェル神殿 自室
王子 エル・シュトラディール
月が煌々と輝き、虫の啼く声が響いている。自室にいた私は、その声を聴きながら夜風に当たっていた。4月ともなり、日が昇る時間は、少し汗ばむ事がある位に暖かい。しかし、日が沈んでしまえば、まだ、肌寒い風が部屋を吹き抜ける。身体も冷えてきたので、そろそろ就寝しようかと、そう思った時、扉がノックされた。
「はい、どうぞ。」
私は、ノックに答える。
「いや、夜遅くにごめんよ、エル。」
そう言いながら、精悍な顔立ちと優しそうな雰囲気を併せ持つ人物が、部屋に入ってきた。彼は、ノイエルン・シュトラディール。私の兄で、王位継承権第1位の王太子だ。歳は、今年で25歳。政務、軍事、人望、どの分野でも優れた人物だと、私は思っている。もちろん、悪い所もあるが・・・。
「いえ、どうかなさいましたか?」
この時間の訪問でも、特に何とも思いはしない。私は、どちらかと言えば、夜更かしをする方だ。夜の方が、静かで、考えに耽るには丁度良い。私は、近くにある椅子を差し出しながら、そんな事を考えていた。
「エルが、初陣で五百騎を任された、と聞いてね。」
「あぁ、その事ですか・・」
私も、椅子に座って、長兄に顔を向けた。
「うん、ヒュセルからは、最初、五百の歩兵を任されたと聞いてたんだけど・・・いつの間にか、五百騎に代わってて驚いたよ。」
彼は、わざとらしく肩を竦めた。これが、彼の悪い所・・・動きが妙に演技臭いのだ。小さい頃より、演劇が好きだったらしいから、それが原因かもしれない。愛嬌のある人だ。
「歩兵では、戦力になりませんから。無理を言って、騎兵に代えて頂きました。」
毅然と、そう答えた。すると、彼は驚いたように、眼を見張る。その意図を問うて来るので、丁寧に説明をした。
騎兵は、軍隊を構成するものとして、歩兵より3つ優れている所がある。まず、前提に、軍事行動とは、必要な数を、必要な質で、必要な時期に投入する必要がある。そして、その時期に間に合わせられる“速さ”が1つ目の優れている所。2つ目は、その“速さ”故に、大量の“糧食”を必要としなくて良い事。大軍を歩兵で構成する場合、歩兵故に、その行軍の速さは遅い。つまり、それは、作戦行動自体の時間が長くなる事を意味する。そうなると、その期間を補完する大量の糧食を必要とする。3つ目は、騎馬の有用性、所謂“質”である。騎馬の強みは広く、突撃力、行動
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