第3騎 御旗のもとに
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。しかし、今やその騎兵は、強さも速さも、見る影もない。ただ、その伝統として騎馬を数多く育てる事だけが続けられていた。
私が、この時代に転生した時には、驚かされたものだ。まさか、あの「アトゥスの騎兵」が見る影もなくなり、歩兵中心の軍隊に成っていようとは。それにも、一応の理由はあった。私が王であった時代から時が進み、敗戦に敗戦を重ねる時代、領土、経済力、生産力等が下がる中で、あの数の騎馬を維持する事は叶わなかったのである。そこで、当時のアトゥスは、維持できない騎馬を野に放した。それ故に、アトゥスの大地には、野生化した馬が多く生息している。私は、転生し、10を数える頃には、その馬を集め、教育する事を始めていた。何にしても、私が軍を率いるその時には、騎馬を用意したかったのだ。
「エル様、どうでしょうか?出来栄えは。」
隣にいる濃い赤色の甲冑に身を包んだ男が、私に問い掛けた。彼は、アレスセレフ・クレタという名で、軍で士騎長を務めている。年齢は25歳。すらりとした長身で、赤い短髪と堀の深い顔が特徴的だ。それ故に、女性に良く好意を抱かれるのだが、本人は無頓着、無関心。私が、王であった時代に軍事を任せていたルイチェル・クレタの血筋だ。クレタ家は武家の名門であったが、この時代では、そうでは無くなってしまったようだ。
「うむ、大分良くなった。さすが、アレスセレフだな。」
今、私の目の前では、五百騎の騎兵が大規模な軍事訓練を行っている。その騎兵は、一つの乱れもなく、突撃、前進、後退、旋回などの軍隊運用を繰り返していた。
私は、今度のアンデル地方迎撃戦において、五百騎を率いる事を許された。その許しを頂いた後、すぐに、五百騎の運用訓練を始めたのである。今のアトゥスの騎兵は、お世辞にも“強い”とは言えない。その有用性を、何も発揮出来ていない程に、落ちぶれていた。それを、戦場に出るまでに何とかしなければいけなかったのだ。
「いえ、そんな事はありません。最初は、エル様が指揮されていたではありませんか。私は、その後を任されただけですよ。」
そう言って、屈託なく笑う。彼は、私が士騎長に推薦した人物である。元々は、等騎長で十騎を率いていた。個人の武勇、部隊を指揮する統率力、部下に慕われる仁徳、どれを取っても非常に優れた人物である。しかし、ヒュセル兄様の作戦の綻びを指摘してしまい、“怒り”に触れてしまった。故に、その地位に甘んじていたのだが、それをどうにかする位は、今の私にも出来る。彼を、私が指揮する五百騎の士騎長の一人に任命して、運用訓練をさせていた。最初こそ、私が“アトゥスの騎兵”たる運用を指揮したが、その後は、彼に全てを任せている。
「何を言う。アレスセレフ、君は、私が“力”を委ねる事が出来る数少ない人物だ。」
私は、彼の目を見て、ゆっくりと口にした。
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