第一章
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第一章
幸せな夫婦
できた女房という存在がある。これは一口に言っても中々いはしない。もっともその逆のできた旦那というのはもっと希少価値であるかも知れない。
昭和の二十年代終わりの大阪。天下茶屋に秋元芳香という女がいた。これが所謂過ぎた女房と評判だったのだ。
何がいいかと言えばまず顔がいい。これが最初に大きかった。それだけでなく身体つきもいい。和服の上からその姿がはっきりとわかる。実に艶かしい。その顔も絶妙に奇麗で妖しく色香漂うものだった。黒髪を上でまとめてそのうなじがこれまたそそるというものだった。肌は白く紅い唇を見事に映えさせていた。
それで終わりではなく性格もいい。慎み深く夫を立てるし貞節だ。物語にあるような女であった。
おまけにやりくりも上手くて料理もできる。何も悪いところはない。よくもまあこんな女がいたものだと感心してしまう程だ。そうした女であった。
その彼女が今日傘を持って道の往来で世間話に興じていた。相手は昔から馴染みの静江という女だ。彼女も結婚してもう子供が結構いる。彼女は彼女でおおらかでできた女だが評判は芳香程ではない。それでも嫉妬を覚えないのは静江の得ではあった。
「それでや。この前やけれど」
静江は芳香に笑いながら話をしていた。その大きな口をさらに開いて言っていた。
「道頓堀まで言って」
「何してたんや?」
「旦那と善哉食べたんや」
「あんたの旦那お酒飲むんちゃうん?」
「それでも甘いもんもいけるんや」
静江は笑ってこう述べた。
「特に善哉は好物なんや、うちの人」
「行ったんは夫婦善哉やな」
「わかるん?」
「わかるで、それは」
芳香は笑って静江にこう返した。
「道頓堀の辺りでええ善哉のお店いうたらそこしかないやん」
「まあそやな」
「そやからわかるで。それで夫婦で一つずつ?」
「いや、二つやで」
静江は笑って言うのだった。
「お互い茶碗を一つずつ交代してや。それでや」
「そうやったんか」
「そういうことや。旦那も美味しい美味しいって食べてな」
「美味しいやろ、あそこ」
芳香もにこやかに笑っていた。艶やかな顔が少女のそれに見える。
「量もあるように見えて」
「あるんちゃうん?」
静江はその言葉に目を丸くさせた。おっとりした目がほんの少しだけ驚いた感じになった。
「うち二つ食べてもうお腹一杯やったで」
「そう見えるだけやねん」
芳香はそう言って笑うのだった。
「ええ?これってコツやねん」
「コツ?」
「そや。ほら、一つのお皿や御椀に入れると寂しいやん」
彼女は静江に対して語る。
「それをな。二つにすると一杯あるなって思って。そういうことなんや」
「そうやったんか」
静江はそれには少し
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