第一章
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驚いた。言われてみればそうだ。そういうやり方もある。そうした意味であの店はよく考えているものだと思った。実はこの値段でこれだけ食べられるのだから贅沢だとも思ったりしたのだ。
「何でもそやで」
芳香はその子供っぽささえ見える顔でまた言った。
「多く見せるにはコツがあるねん」
「そやったんか」
「そうやで。おかずかて同じや」
主婦の話題の中心に来た。やはりその日のおかずが何なのかが最も重要なのだ。それを考えればここに話が至るのも当然と言えば当然であった。
「一つのもんを一つのお皿に出すより」
「二つにする」
「それは何でもええねん」
そう付け加える。
「どんなしょぼくれたお味噌汁でもな。あるとないのとで大違いやで」
「そうやったんか」
静江はそれを聞いて感心すること至極であった。
「そうすればよかったんか」
実はおかずが少ないと結構亭主に言われたりするのだ。しかしこれで大きく違うと思った。本当に目から鱗が落ちる思いであった。
だが芳香の話はこれで終わりではない。さらに言うのだ。
「お味噌汁の具もな」
「どんなんでええんや?」
「残りものを入れたらええんや」
「残りものなん?」
「大根の葉っぱとか昆布の残りとか」
案外見ているようで見ていないものだ。それを言ってきたのだ。
「そういうのでええねんで。いや、それでかえってええんや」
「かえってなん」
「そや。大根の葉っぱなんてあまり見たりせえへんやろ」
「まあそやな」
少し前までは食べるものが何もなく何でも食べていたがもう戦争から十年近く経っている。だからそういうものを食べるのも次第に忘れてきていたのだ。
「大根自体はともかく」
「そういうことやで。おかずかてな」
まだ話が続く。
「一度にようさん作るんや」
「何日も食べる為やろか」
「それもあるけれど他にもあるんや」
まだあるという。彼女の目のつけどころは中々様々に至っている。
「一度にようさん作った方が味がええ」
「そうなんか」
「特にカレーはそやで」
といってもこの時代はカレーに肉が入っていればご馳走である。よくて豚肉といったものだった。肉そのものが非常に貴重な時代であったのだ。これは昭和五〇年代までそうであったであろうか。
「一度にようさん作るんや。味も出るしな」
「ほなうちも明日からそうするわ」
静江はおっとりした調子で言った。
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