第三章
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第三章
「しかし。痛いことは痛いのじゃ」
それは言う。
「暫くは打ち身に悩まされるな」
「それでどうされるのですか?」
周吉はまた困った顔になった雷神に問うてきた。怪訝そうに彼の顔を窺っている。
「どうとは?」
「ですから空に戻られるのは」
「ああ、それか」
それを言われて思い出したような少し素っ頓狂な顔を見せる。
「それじゃな」
「戻れるんですよね」
「一応はな」
周吉に対して答える。右手に湯飲みを持ってそれを口に近付けながら。
「戻れるぞ。心配をかけて済まぬな」
「いえ。それでどうして」
「それにはな。実は頼みがあるのじゃ」
困った顔を見せてきた。
「頼みですか」
「うむ」
二人に対して言う。急に目を閉じ何かを考える顔になってきた。
「そうじゃ。その頼みとはな」
「ええ」
「それは一体」
「風呂を借りたい」
その言葉は二人にとってはあまりに意外な言葉であった。これまでで一番目を丸くさせてきた程である。流石に言葉もなかった。次の言葉さえ出ない。
「よいか」
「あの」
おたみが驚きながら彼に尋ねてきた。
「お風呂なんですよね」
「左様」
大きく頷いて応えてきた。
「何故それが」
「地上に落ちたな」
「はい」
それは見ればわかる。現に彼は今ここにいる。それが何よりの証拠である。
「それで地上の穢れを受けたからな。これでは空に戻れんのじゃ」
「そうだったのですか」
「はあ」
二人はそれを聞いてようやく納得した。納得はしたがやはり何と言っていいかわからない。
言葉に詰まっている。しかし雷神は実に気兼ねなく言うのである。
「褒美は弾む」
「褒美ですか」
「そうじゃ。じゃからな、風呂を借りたいのだがいいか?」
「ええ、まあ」
そんなことなら問題はない。周吉もおたみも特にこれといって考えることなくそれに頷いた。
「済まぬのう、それでは早速」
「火を沸かしますんで」
「それとな。米ぬかも頼む」
おたみに答える。この時代は米ぬかで髪を洗っていた。言うならばシャンプーにしていたのである。江戸時代の人々はかなり清潔であったのだ。少なくとも当時のフランスと比べれば隔絶たるものがあった。
「完全に穢れを落とさぬと戻れぬからのう」
「意外と大変なんですね」
「偉いさんがな。五月蝿いのじゃ」
困ったような笑みを浮かべて述べる。
「そうしたことにはな。神たるもの穢れていてはならぬと。穢れていては妖怪と同じじゃとな」
「そこまで言われるのですか」
周吉はそれを聞いてかなり厳しいものだと感じた。しかし神様ならばそれも当然かも知れないと話を聞きながら思ったりもした。
「左様、これでわかったな」
「はい」
「では借りるぞ」
そう言うとすぐ
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