第一章
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だ。
「売れて売れて仕方がない」
顔を崩して笑う。
「江戸の人達が盛大に飲んでくれるからな」
「そうだね。江戸の人達に足を向けて寝れないよ」
おたみも笑って亭主に返す。子供を時折あやしながら。
「何かとね」
「そうだよな。んっ?」
「どうしたんだい、御前さん」
「いや、天気がな」
窓の向こうの少し暗くなってきた空を見上げ出した。
「何か悪くなってきたと思ってな」
「そういえばそうだね」
おたみもそれに気付く。天気は見る見るうちに悪くなっていく。そのうちに雲が厚く黒いものになっていき雨が降り出したのだった。
「もう降ってきたな」
「仕事遅くまでしないでよかったね」
おたみはまずはそのことにほっとした。雨に遭っては洒落にならない。雨を見ながらそれに遭わなかったことに安心していたのである。
「そうだな。それで晩飯は何だい?」
「雑炊でどうだい?」
「雑炊か」
「米のね。あと色々入れてね」
「悪くないな、そりゃ」
それを聞いて頬を緩ませる。彼は雑炊が好きなのだ。それも米の雑炊が好きだ。味がもっともソフトで食べやすいからだ。そこに色々と入れて食べるのである。
「もう少ししたら作るからね」
「頼むぜ。坊主の面倒は俺が見とくからな」
「頼むよ。しかしねえ」
空を見て言う。雨はどんどん強くなっていた。激しい音を立てて土砂降りの雨が降る。地面は川のようになりそれでもまだ降っている。
そのうえ雷まで鳴ってきた。周吉とおたみはそれを見て顔を顰めさせた。
「今度はこれか」
「お臍隠すかい?」
「といっても俺もおめえもちゃんと服着てるじゃないか」
そう女房に返す。
「坊主だな、後は」
「大丈夫だよ、ちゃんと隠しているから」
子供を見せて言う。見れば布で奇麗に覆われている。何も心配は要らない格好だった。
周吉はそんな自分の子供を見てにこりと笑う。その後で言った。
「じゃあ安心か。臍のことはな」
「そうだね。雷様が落ちて来ない限り」
ここで稲光がする。しかし二人はそれを見ても平気だった。
「そんなことあるもんか」
周吉はそれを聞いて笑った。笑ったところで一際大きな雷が落ちた。黄色い光の後で轟音が辺りに響き渡る。本当に雷神が落ちて来たかのようだった。
「凄かったな、今のは」
「凄いなんてものじゃなかったよ」
今のには二人もかなり驚いていた。それだけとんでもない光と音だったのだ。
「今のはちょっとね」
「本当に雷様でも落ちて来たのかね」
「まさか」
亭主のその言葉は一笑に伏す。
「そんなことはないよ、幾ら何でも」
「そうだよな」
「そうだよ、やっぱり」
流石にこれはないと思った。ところがだ。それがあるのが世の中のとんでもないところだった。そう、その幾ら何でもな
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