暁 〜小説投稿サイト〜
緋弾のアリアGS  Genius Scientist
イ・ウー編
武偵殺し
20弾 理子の誘惑
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なくなってるだけかもしれないってやつ」

「そんなものが……あるのか」

「そこにね、見つけちゃったんだ。たぶん、そうじゃないかなぁって名前」

 理子はポシェットから出してきた4つ折りのコピー紙を、手品でもするかのようにゆっくり、ゆっくりと広げ、俺に見せつけてくる。

「――――っ!」



 俺の血が、一瞬だけ凍る。



『2008年12月24日 浦賀沖海難事故 死亡 遠山(とおやま)金一(きんいち)武偵(ぶてい)(19)

「この名前、キーくん……そしてミーくんのお兄さんでしょ?ねーこれ、シージャックだったんじゃない?」

 この時の俺は意識が眩み、理子の発言から特に違和感を感じなかった。

 理子の声が、やけに遠く聞こえる。

 ――――『武偵殺し』。

 何なんだ、おまえは。

 誰なんだ、おまえは。

 何で、金一を……兄さんを。

 何で兄さんを、俺を、狙ったんだ。



『浦賀沖海難事故』。キンジの実兄で俺の義兄である遠山金一は、去年の冬に起きたこの事故のせいで死んだ。それは、キンジを失って半ば死にかけていた俺に、さらなる追い打ちをかけるものだった。

 この事故は、日本船籍のクルージング船『アンベリール号』が沈没し、乗客1名が行方不明となり……死体も上がらないまま捜索が打ち切られた、不幸な事故だった。

 そしてその行方不明となった乗客が、金一だった。

 いつも力弱き人々のためにほとんど無償で戦い、どんな悪人にも負けなかった金一は――――警察の話によれば、乗員・乗客を船から避難させ、そのせいで自分が逃げ遅れたそうだ。

 だが、乗客たちからの訴訟を恐れたクルージング・イベント会社、そしてそれに焚きつけられた一部の乗客たちは、事故の後、金一を激しく非難した。

 曰く、『船に乗り合わせていながら事故を未然に防げなかった、無能な武偵』と。

 ネットで、週刊誌で、ありとあらゆるメディアで見た、あの罵詈雑言の数々。

 今でもたまに、夢に見る。

 こうして俺は、1年間で2回目の家族の死を体験した。



「いい」

 熱を含んだ理子の声に、はっ、と気を取り戻す。

 俺と目が合うと、理子はスッと目を細めた。

「いいよミズキ。ミズキのそういう――――眼。理子ゾクってきちゃう」

 まるで何かに快感を得ているような表情で、理子は俺に上半身を寄せてくる。

「Je t’aime a croquer.入試の時、理子、ミズキの眼に――――ひとめぼれしちゃったんだぁ」

「――――理子?」

 入試の時、俺は理子を赤子の手をひねるように倒している。

 その時のことを、言っているのか?

「ミズキっ」

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