番外9話『火拳で危険』
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…お、お前あのドサクサでよく覚えてるな」
YESでもNOでもない、照れを隠しながらの肯定。
「ほー、あれがお前がいつも好き――」
「――だーそれは言わなくていいだろ!」
「なんだよ、別に誰も聞いてないだろ」
「だーうるさいうるさい! 恥ずかしいんだよ、そこは察せよ!」
「恥ずかしいって……ガキかよ!」
「誰がガキだ! ガキって言ったほうがガキだ!」
「その発言がそもそもガキなんだよ!」
「なんだと!?」
「やるか、こら!?」
ほとんど同じやり取りを少し前にやっておいて、性懲りもなく元気に言い争う二人の口喧嘩はどっちも子供そのもの。先ほどはスモーカーの横やりで喧嘩が止まったが、今度はエースが「おっと」と、不意に一人だけ足を止めて向きを変えたことで中断された。
「……? メリー号はそっちじゃないぞ、エース?」
「俺は俺の乗り物で来てるんだ。それでお前らの船に合流するから、また後でな」
「あぁ、あの便利そうなやつか……わかった、後でな」
二人して拳を軽く合わせて、別方向へと走る。
お互いの顔が見えなくなった時、二人の顔は弾んでいた。
メリー号から離れていくエースを見送る。
「またなー!」と手を振るルフィとハントを見ながら、ナミ、ウソップ、チョッパー、ゾロ、サンジが順につぶやく。
「ウソよ……ウソ……あんな常識ある人がルフィのお兄さんなわけないわ」
「おれはてっきりルフィに輪をかけた身勝手な野郎かと」
「兄弟って素晴らしいんだな」
「弟想いのいいやつだ」
「わからねぇもんだな……海って不思議だ」
「ちょっとみんな」
最後のビビ以外はなかなかにひどい言葉だが、それが普段のルフィの評価なのだから仕方ないと言えば仕方ない。
ちなみに、メリー号の中にはカル―の姿がない。
ついにルフィたちの手によって胃袋の中に……という悲惨な事実があったわけではなく、カル―がいないのは真実をしたためた手紙を王へと届けるため首都『アルバーナ』へと出発しているからだ。
麦わら一味と別行動なのは、反乱軍を止めるために向かう『ユバ』と方角が違うため。
と、カルーのことはさておき。
『ナノハナ』で砂漠を渡る準備を終えた麦わら一味は反乱軍が本拠を置く地オアシス『ユバ』を目指すわけだが『ユバ』へ行くためにはこれから緑の町『エルマル』に船を寄せ、砂漠を渡る必要がある。
砂の国に慣れていない彼らにはきっと大変な道中になるだろう。
それでも、彼らの目に不安や迷いは一切ない。
すべてはバロックワークスに仕組まれた無意味な争いを止めるために、そしてそれを例え一人でも成そうとするであろうビビのために。
彼らは行く。
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