第一部 学園都市篇
序章 シャングリ・ラの少年
16.July・Night:『The Dark Brotherhoods』
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「いえ、ちょっと……世の無情を」
「哲学ですか……それもよいでしょう、思考は魔術にとって最良の触媒ですからね」
言われた通り、古書を紐解く。一見した通りに羊皮紙にインクで記された不可解な文字や挿し絵。
「にしても、全く解りませんよコレ……」
頁を捲れば捲るほど、こんがらがる内容に頭を抱える弟子。それを、魔導師は微笑みながら。
「そんなコウジくんの為に、このラテン語辞典(定価25000円)の初版本がありますよ。身内割引で二割引しましょう」
「……ニアルさん、学生が二万も持ち歩いてる訳無いじゃないですか」
その逞しすぎる商魂に舌を巻きつつ、辞書を返す。事実、彼の財布には二千円くらいしか入っていないのだから。
「そうですか、残念です……モテると思ったんですけどね、自己紹介の時に『第二言語、ラテン語』」
「買います。借金してでも買わせていただきます」
「毎度有り難う御座います。では、ローン契約書にサインを」
結局、魔術的な契約書にサインさせられたのだった。
………………
…………
……
唯一の弟子が帰った後、魔導師は店の明かりを消した。ドアには『CLOSE』の掛札、営業終了である。
外からの明かりのみが照らす室内、その窓辺に珈琲を片手に……煌々と燃え盛るような深紅の瞳で、遠く聳えるビルを見遣る。
「さて、こちらの手札は揃った……ゲームを始めようか、大導師。君の『法の書』と私のシナリオ……どちらが優れているか、ね」
先程までと同じく、穏やかな笑み。しかし、そこに含まれるものは明らかな――――
「聞こえてくるようだね、か細く呪われたフルートの音色と、くぐもった下劣な太鼓の連打が」
くるくると回る、いくつもの風力発電装置の彼方――――肉眼では見えようもない、闇の中。
そこに聳える、『窓の無いビル』を見詰めて――――――
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