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Shangri-La...
第一部 学園都市篇
序章 シャングリ・ラの少年
16.July・Night:『The Dark Brotherhoods』
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抱える……カッターシャツの黒髪のツンツン頭。
 どうやら、自販機に金だけ飲まれたようだ。さっきからジュースの釦を連打しているが、無意味な努力だ。

――えー、何、不幸アピール? 男がやっても引くだけなんだけれども。
 まぁ、今回は気分いいからいいや。美少女四人の番号とメアドゲットの対馬さんの幸福をお裾分けといきますか。

 そう結論、高校生らしき少年の隣に立つ。財布から、小銭を取り出して。

「ちょっと御免、いいか?」
「え、ああ、どーぞ……」

 気落ちしたらしい少年は、右手を自販機に突っ張ったまま脇にずれた。嚆矢は、少年の触れる自販機に金を投入して缶コーヒーの釦を押し――――当たりの表示が出る前に、ジュースの釦を押して。

「――――あれ? 外した……嘘だろ」
「?」

 しかし、ルーレットは外れてしまった。勿論、ジュースは出ない。
 それを訝しみ、少年が右手を自販機から離す。

――マジか、いつ以来だ……クソ、格好悪いな……。なら!

 苦し紛れに、お釣りのレバーを引く。すると、お釣りの小銭と共に千円札が帰ってきた。
 それを見た少年が、俄に色めき立った。

「これ、あんたの?」
「え、ああ、そうそう! 助かった……」

 その千円を、少年に返す。辛うじて、赤っ恥を掻かずに済んだらしい。

「悪い、どうも自販機とは相性悪くてさ」
「じゃあ、これからは出来るだけコンビニか何かの方が良いぜ? ジュース代だってバカにならないだろ?」
「全くだな……ハハ。いや、本当にありがとう」

 ツンツン頭の少年は、疲れたような笑顔と共に頭を下げて帰っていった。

――なんてーか、背中の煤けた奴だったなぁ。

 抱いた感想は、それだけ。そんな事より、コーヒーを啜りながら元通り帰途に着いた嚆矢の頭を占めていたのは――

「おっかしいなぁ、外しちまった……自販機のルーレットとか、いつ以来だよ……」

 無駄な散財をした事、そして能力が不発だった事。それが何故かと言う事だった……


………………
…………
……


 スクーターの貧弱なエンジンを目一杯吹かし、夕闇の帳が降り始めた学園都市の街路を走る。

――やっぱり、夜の方が静かで良いねぇ。こう、太陽の下より月の下の方が活力が沸いてくる気がする。
 何だか、出来る事なら羽撃(はばた)きたい。

 と、信号に捕まった。あと少しで目的地、というところで、

「ちぇ、捕まったか」

 大人しく、停止線で待つ。中には歩道を走る不届き者も居るが、流石にそこまではしない。第一、女性四人の集団が横断歩道を渡ろうとしているのだ。
 その時、右手を挨拶のように肘を曲げて軽く挙げる。後続車に見せる、左折のサインだ。

「―
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