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魔法少女リリカルなのは ViVid ―The White wing―
第二章
十八話 Lost memory
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「ぁ……」
不意に、自分の右手の有る位置に、目が行く。
掛け布団から引き出したその掌は何時ものように、うすく朱みがかった綺麗な肌色をしていたが、ヴィヴィオの眼には其れが、徐々に赤の色合いが濃くなっていくように映る。自分の動悸が速く、呼吸が浅くなっていくことすら、今のヴィヴィオの意識の内には入らない。
赤みを増していく掌はテラテラと滑るように照りを帯び始め、ドロリと流れて行くその赤が自分の腕を汚し、真っ赤な其れが彼女の意識すら侵食する。やがて視界の先に、有る筈の無い血だらけの少年の姿が映り込み始め……
「ヴィヴィオ?目が覚めたの?」
「っ!?」
「良かった……!」
瞬間、ヴィヴィオは心臓が止まるかと思うほどの驚きの声と共に、ヴィヴィオは声のした方を見た。其処には安心したように微笑んで自分を見る、母の姿がある。
「ママ……」
「……?ヴィヴィオ、どうしたの?どこか痛む?」
「えっ……」
言いながら、心配そうな顔でトコトコと近寄って来るなのはを見て、ヴィヴィオは初めて自分が泣いて居る事に気が付いた。目尻からポロポロとこぼれた涙が、先程まで被って居た布団を濡らす。滴が落ちた事で出来あがった小さな染みが、ヴィヴィオの視界に歪んで映った。
「ママ……ママァ……!」
「わっ……」
一にも二もなく、ヴィヴィオは母に抱きついて居た。強くなろうと決めて以来、ヴィヴィオは母に泣きつく事は極力止めるようにして居た。泣き虫の自分を卒業すると、ゆりかごの事件の後目が覚めた時、母に誓ったからだ。
けれどどうしても辛い時、やっぱり彼女にも限界がやって来て、母に抱きつき、泣いてしまう事はある。そして今回に置いては、最早泣きつく意外の選択肢など、ヴィヴィオの頭の中には微塵も浮かばなかった。
「うっ……ひぅ……ぅぁああ……!」
「ヴィヴィオ……?どうしたの?怖い夢?」
聞きながらも、なのはは優しくヴィヴィオを包み込み、その背中を緩やかに叩き、髪を撫でて、自分を包んでくれていた。
悪い夢を見たのかと問う母に、ヴィヴィオは首を横に振った。
そう、もし眠っている時に見た物が夢であったなら、其れはどんなに素敵な事だっただろう?自分の頭の中だけに有る恐ろしいイメージで、目が覚めたなら全ては無かった事になって居たなら、其れはどんなにすばらしいだろう?けれども自分が見た物は夢ではない……記憶だ。其れは現実に起こった事であり、変えられない過去である。目が覚めても無かった事には成りはしないし、少女の心に其れは容赦なくのしかかる重みだ。
「ママ……私……私……お兄ちゃんに……!ぅあぁ……!」
「ヴィヴィオ……クラナがどうしたの……?」
「私……私……」
そうしてヴィヴィオは、彼女の脳へと還ったその全てについてを、なのはに話した。
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