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母の怪我
第五章
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見えるのよ」
 そのものずばりといった口調になっている母だった。
「わかったわね。わかったらよ」
「これからも家事をしろってこと?」
「その通りよ。奇麗になりたかったらね」
「そういえば最近痩せてきたし」
 美佳はこのことにも気付いた。
「それもやつれたんじゃなくて体脂肪率が減ってきたっていういい感じの」
「スタイルも少しよくなってるじゃない」
「そうかしら」
「家事は身体動かすからよ」
 次に母が言ったのはこのことだった。
「だからよ。痩せたのよ」
「そうだったの」
 これまたあらたにわかった事実だった。
「それでだったの」
「それもわかったわね。わかったらよ」
「ええ」
「頑張りなさい。いいわね」
「そうね。家事もね」
 母の言葉に言われるまま頷いた。
「やっていくわ。これからはね」
「いいことよ。女はね、何でもいいから気合を入れてやるのよ」
「いいことをね」
「悪いことをしたら悪い女になるわよ」
 これは言うまでもなかった。世の中の常識である。
「ぐうたらなことをしたらぐうたらな女になって」
「それでいいことをしたらね」
「そうよ。いい女になるわ」
 にこりと笑って娘に告げた。
「わかったわね。じゃあこれからは」
「ええ。いい女になるわ」
 にこりと笑って母に答えた。
「頑張ってね」
 これが彼女の決意だった。それから彼女は母が退院してからも家事も頑張るようになった。それは結婚してからも続き回りからいつも美人だ美人だと言われていた。しかしその美容の秘訣はというとこれであった。しかし彼女自身がこのことを話してもまさかと思う人が殆どだった。実際にやってみないとわからないものなのだろうか。しかし彼女がこれで奇麗になったのは紛れもない事実である。


母の怪我   完


                   2009・4・3

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